ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第34帖 若菜上 / 第24場面

蹴鞠の帰路と贈答

あらすじ・人物・読み方

垣間見の後、源氏の昔語りに柏木は身の程を思い知らされ、胸を塞いで退出する。帰路、夕霧と同車して宮の待遇を語り合ううち、柏木は鶯の歌を口ずさみ、夕霧が返歌するが、煩わしさに話は紛れて別れる。

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現代語で読む

何でもない顔で振る舞っていたけれど、「まさか目を留めないことがあろうか」と、大将は気の毒にお思いになる。どうしようもない心地の慰めに、猫を招き寄せて抱き上げると、たいそう香ばしくて、可愛らしく鳴くのも、懐かしく思い比べられるのは、好色なことだ。

大殿がご覧になってお呼び寄せになって、

「上達部の席が、たいそう軽々しい。こちらへこそ」

と言って、対の南面にお入りになると、皆そちらに参上なさった。宮も座り直っていらっしゃって、お話なさる。

次々の殿上人は、簀子に円座をお召しになって、わざとらしくなく、椿餅や梨、柑子のようなものどもを、さまざまに箱の蓋などに取り混ぜてあるのを、若い人々がふざけて取って食べる。適当な乾物ばかりにして、お土器が参る。

衛門督は、たいそうひどく思い沈んで、ともすると、花の木に目を付けて眺めやる。大将は、心の中で知って、「不思議だった御簾の透き影を思い出すことがあるだろうか」とお思いになる。

「たいそう端近だった様子を、一方では軽々しいと思うだろうか。いやいや。こちらのご様子は、そうあってはならないはずのものを」と思うところに、「そうであるからこそ、世の評判のほどよりは、内々のご配慮が緩いようであった」

と思い合わせて、

「やはり、内外の用意が多くなく、幼いのは、可愛らしいようだけれど、心配なようでもあるな」

と、思い落とされる。

宰相の君は、万の罪をもほとんど辿られず、思いがけないものの隙から、かすかにもそれと拝見したことにも、「私の昔からの思いのしるしがあるべきことなのか」と、宿縁が嬉しい心地がして、見飽きないばかりに思われる。

院は、昔話をし出していらっしゃって、

「太政大臣が、万のことに立ち並んで、勝ち負けをお決めになった中で、鞠だけは及びませんでした。はかないことは、伝えがあるはずもないけれど、物事の筋はやはり格別でした。たいそう目も及ばず、賢く見えたものです」

とおっしゃると、微笑んで、

「確かな方面には緩い家風が、それほど吹き伝えておりますのに、後の世のため、異なることがなくあるべきでしょう」

と申し上げなさると、

「どうしてそうか。何事も人と異なる区別を、記し伝えるべきだ。家の伝えなどに書き留めて入れたならこそ、興があるだろう」

などと、戯れていらっしゃるご様子が、匂いやかで清らかなのを拝見するにつけても、

「このような人に倣って、どれほどのことに心を移す人がいらっしゃるだろうか。何事につけてか、しみじみとご覧になるばかりは、靡かせ申し上げるべきだ」

と、思い巡らすにつけ、たいそう際限なく、ご身辺が遥かであるべき身のほども思い知らされるので、胸だけが塞がって退出なさった。

大将と同じ一つの車で、道の間お話なさる。

「やはり、近頃の退屈には、この院に参って、紛らわせるべきことでした」

「今日のような暇の隙を待ち付けて、花の盛りを過ごさず参れ、とおっしゃっていたのを、春を惜しみがてら、月のうちに、小弓を持たせて参上なさい」

と語らい約束する。それぞれ別れる道の間お話しになって、宮のご事をなお言いたいので、

「院は、やはりこの対にだけおいでになるようですな。あの方のご寵愛が異なるようですよ。この宮はどうお思いだろうか。帝が並びなく慣らし申し上げていらっしゃったのに、そうでもなく、屈していらっしゃったなら、心苦しいことです」

と、無愛想に言うと、

「重大なこと。どうしてそうであろうか。こちらは、様子が変わって育て上げていらっしゃった親しみの区別ばかりであるはずです。宮をば、方々につけて、たいそう重々しくお思い申し上げていらっしゃるのに」

とお語りになると、

「さあ、お静かに。ください。皆聞いております。たいそう気の毒そうな折々があるというものを。それにしても、世に並びない方のご寵愛を。ありがたいことです」

と、気の毒がる。

どういうわけで、花に木伝う鶯が、桜をよそに分けてねぐらとはしないのだろうか

春の鳥が、桜一つに留まらない心よ。不思議に思われることです」

と、口ずさみに言うと、

「さあ、なんと味気ないものの扱いだ、そうかそうか」と思う。

深山の木にねぐらを定めるはこ鳥でさえ、どうして花の色に飽きることがあろうか

どうしようもないこと。ひたすら趣にだけだろうか」

と答えて、煩わしいので、特に言わせないようになった。別のことに言い紛らわせて、それぞれ別れた。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第34冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。