第34帖 若菜上 / 第6場面
朱雀院、源氏に宮を託す
あらすじ・人物・読み方
落飾した朱雀院を六条院が見舞い、変わり果てた姿に悲しみを抑えきれない。院は出家の本意を果たせなかった弱さを語り、後見のない女三の宮を特に案じて、源氏にその後見を託したいと打ち明ける。
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現代語で読む
内裏をはじめ申し上げて、お見舞いの頻繁さは、言うまでもないほどである。
六条院も、少しご体調がよいとお聞き申し上げて、参上なさる。賜わる領地などは、皆同じように、退位した帝と等しく定まっていらっしゃるけれど、本当の太上天皇の儀式だと張り合うことはなさらない。世間の扱いや評判などは、格別であるけれど、わざわざ簡素になさって、いつもの仰々しくないお車をお用意して、上達部など、相応の人々が、車でお仕え申し上げた。
院は、たいそう待ち喜び申し上げなさって、苦しいご体調を無理にお強がりになって、ご対面がある。正式な形ではなく、ただいらっしゃる方に、お座を用意し加えて、お入れ申し上げる。
変わりなさったご様子を拝見すると、過去も未来も暗くなって、悲しさがとどめがたく思われるので、すぐにはためらうことがおできにならない。
「亡き院に遅れ申し上げた頃から、世の無常を思わずにはいられなかったので、出家の本意は深く進んでいたのに、心弱く思いためらうことばかりございまして、ついにこのように拝見できるようになるまで、遅れ申し上げてきた心の生ぬるさを、恥ずかしく思われますよ。
自分の身にとっては、どうということもないと思い立つ折々があるのに、やはり、たいそう忍びがたいことが多くなりそうなことでした」
と、慰めようもなくお思いになっている。
院も、何となく心細く思われるので、心強くあることができず、しょんぼりなさりながら、昔や今の物語を、たいそう弱々しくお話し申し上げて、
「今日か明日かと思われながらも、さすがに月日が経つのを、怠けて、深い本意の端さえも遂げずに終わってしまうだろうと、思い起こしたのです。
こうしても残りの寿命がなければ、修行の志も叶わないでしょうけれど、まずは仮にでも、落ち着かせておいて、念仏だけでもと思っています。頼りない身でも、世に長らえていることは、ただこの志に引きとどめられたのだと、お分かりでないこともないのに、今まで勤めのない怠りをさえ、心安くないのです」
と言って、お考えになっていた様子などを、詳しくおっしゃるついでに、
「女の皇女たちを、多く置き捨てておりますのが心苦しい。中でも、ほかに思い譲る人のない子は、特に気がかりで、見ていて困っております」
と言って、はっきりとはしないご様子を、心苦しく拝見する。
源氏はお心の中でも、さすがに気がかりなご様子なので、聞き過ごしがたくて、
「本当に、普通の人以上に、このような方面では、私的な後見がないのは、残念なことでしょう。東宮がこのようにいらっしゃるので、たいそう畏れ多い末の世の儲けの君と、天下の頼りどころに仰ぎ申し上げるのに。
まして、このことと申し置きなさることは、一事として疎かに軽んじ申し上げるべきではないので、まったく将来のことをお悩みになるべきでもないのですが、本当に、事に限度があれば、公的な立場におなりになり、世の政治がお心にかなうはずとは言いながら、女の方のために、どれほどの際立ったお心寄せがあるはずもございませんでした。
すべて、女の方のためには、さまざまな本当の後見とすべきものは、やはり相応の関係で契りを交わし、避けられないこととして、育て申し上げるお守りがあるのが、後ろ安いことでしょうが、やはり、強いて後世の疑いが残りそうなら、よろしいようにお選びになって、ひそかに、相応のお預かり先を定めおかせなさるべきだそうです」
と、申し上げなさる。
「そのように思い寄ることはありますが、それも難しいことでした。昔の例を聞いても、世を保つ盛りの皇女でさえ、人を選んで、そのようなことをなさった例は多かったのです。
ましてこうして、今はもうとこの世を離れる間際で、仰々しく思うべきでもないのですが、また、そうして捨てる中にも、捨てがたいことがあって、さまざまに思い煩っているうちに、病は重くなっていきます。また取り返しようもない月日が過ぎていくので、心が慌ただしいのです。
恐れ多いお願いですが、この幼い内親王を一人、特別に育ててお思いになって、相応の縁をも、お心に定めてお預けください、と申し上げたいのですが。
権中納言などが独り身でいた頃なら、進み寄ることもできたでしょう。大臣に先を越されて、悔しく思われます」
と申し上げなさる。
「中納言の朝臣は、誠実な面では、たいそうよくお仕えするでしょうが、何事もまだ浅くて、手引きが少ないことでしょう。
恐れ多いことながら、深い心で後見申し上げますのに、いらっしゃるお蔭に代わるとは思われないでしょうが、ただ将来が短くて、お仕えしきれないことがあるだろうと、疑わしい面だけが、心苦しいことでしょう」
と、引き受けて申し上げた。
夜になると、主人の院方も、客人の上達部たちも、皆御前で、饗宴のことが、精進物で、格式張らず、優美に催された。院の御前に、浅香の懸盤にお鉢などが、昔と変わって出るのを、人々は涙を押し拭う。しみじみとした筋のことがいろいろあるが、煩わしいので書かない。
夜が更けてお帰りになる。禄を、次々に下さる。別当の大納言もお見送りに参上なさる。主人の院は、今日の雪でますます風邪が加わって、ひどくお悩みだったけれど、この宮のご事を、申し上げて定めたことを、心安くお思いだった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第34冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。