ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第34帖 若菜上 / 第7場面

源氏、紫の上に打ち明ける

あらすじ・人物・読み方

朱雀院から女三の宮の降嫁を託された源氏は心が乱れる。翌日の雪の日、源氏は紫の上に事情を打ち明け、自分の心は変わらず宮も疎かにしないと約束し、世間の噂に騒がぬよう諭す。紫の上は穏やかに受け入れるが、内心では不安を抱え続ける。

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現代語で読む

六条院(源氏)は、どことなく心苦しく、さまざまに思い乱れていらっしゃる。

紫の上も、そのようなご決定だそうだと、以前からそれとなくお聞きになっていたけれど、

「そんなことはあるまい。前斎院をも、源氏が熱心にお求めになったようだったけれど、あえて思いを遂げずに終わったのだから」

などとお思いになって、「そんなことがあるのですか」ともお尋ねにならず、何も知らないふうでいらっしゃるのが気の毒で、

「この事をどうお思いになるだろう。私の心は少しも変わるまいし、そんなことがあればかえってますます愛情は深まるだろうが、紫の上が納得なさらない間、どれほど思い疑われるだろう」

などと心安らかでなくお思いになる。

今の年頃になっては、ますます互いに隔て申し上げることもなく、しみじみと情愛の深いご夫婦仲なので、しばらくでも心に隔てを残すことがあれば鬱々とするので、その夜は休んで夜を明かしなさった。

翌日、雪が降り、空の様子もしみじみと趣深く、過ぎ去ったことや将来のことをお話し交わしなさる。

「朱雀院がご容態も頼りなくおなりになったので、お見舞いに参上して、しみじみとしたことがいろいろあったよ。女三の宮のごことを、とても放っておけない様子でお思いになり、あれこれとおっしゃって託されたので、気の毒で、お断り申し上げることができなくなってしまったのを、世間の人は大げさに言い立てるだろうね。

今は、そういうことも初々しく興ざめに思うようになっているので、人づてにご意向を示されたときには、なんとか逃れ申し上げていたのに、対面の折に、思慮深い様子でいろいろとおっしゃり続けたのには、きっぱりとお返事申し上げることもできなかったのだ。

深い山住まいにお移りになる頃までには、お迎え申し上げるだろう。つまらなくお思いになるだろうか。どんなことがあっても、あなたに対して、今までと変わることは決してあるまいから、心を残したりなさるなよ。

あちらの宮のためこそ、気の毒だろう。それも不完全にならないよう取り計らおう。誰もが皆、穏やかに暮らしなされば」

などと申し上げなさる。

他愛ないお戯れ事でさえ、目に余るものとお思いになって、心安らかでないご性質なので、「どうお思いになるか」とお思いになるのに、紫の上はまったく平然として、

「しみじみとしたお譲りなのでしょう。私に対して、どんな心を残し申し上げることがありましょうか。目に余る、どうしてこんなことに、などと咎められることがないようでしたら、安心してもいられましょうが、あの母女御の方に対しても、疎遠でなくお思いに入れてくださるでしょうか」

と、謙遜なさるのを、

「あまり、こう打ち解けたお許しぶりも、どうしてかと、後ろめたく思われる。本当は、それほどにお思い緩めて、私も人も心得て、穏やかに取り計らって過ごしなされば、いよいよ情愛も深まろう。

間違ったことを申し上げるような人の言葉を、聞き入れなさるな。そもそも、世間の人の口というものは、誰が言い出すともなく、自然と人の仲などが少し歪んで、思いがけないことが出てくるものだから、心を一つに静めて、成り行きに従うのがよい。早まった騒ぎをして、つまらないことで恨みなさるな」

と、たいそうよく教え申し上げなさる。

紫の上は心の中でも、

「このように空から降って湧いたようなことで、源氏が逃れがたいのを、憎らしくも申し上げまい。私の心に遠慮なさり、私が諫めることに従いなさるはずのことが、同士の心から起こった恋愛沙汰でもない。防ぎようがないことながら、おかしく思い悩む様子が、世間に漏れ聞こえてはならない。

式部卿宮の大北の方が、いつも含みのあることをおっしゃり出しながら、つまらない夕霧大将の御ことでさえ、妙に恨み嫉みなさるというのに、このように聞いて、どれほど著しく思い合わせなさるだろう」

などと、穏やかな人のお心とはいえ、どうしてこれほどの心の隅の陰がなかろうか。今はまさかそんなことはあるまいとばかり、自分の身を持ち上げて、心安らかに過ごしてきた世の中が、人笑いになるだろうことを、心の底では思い続けなさるけれど、たいそう穏やかにだけ振る舞っていらっしゃった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第34冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。