第34帖 若菜上 / 第9場面
管弦の遊びと尚侍の帰館
あらすじ・人物・読み方
朱雀院の賀の管弦の遊びに式部卿宮が訪れ、太政大臣や柏木、兵部卿宮らが名琴を弾き合う。源氏も珍しい曲を披露し、夜の更けるまで見事な演奏が続く。明け方、帰る尚侍の君は、年月を数え知らされた心細さと、思うように対面できない残念さを源氏に語る。
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式部卿宮は、参上しにくいとお思いだったが、お誘いの便りがあったので、このように親しい間柄であり、風流な催しがありそうなのを断るのも具合が悪く、日が高くなってからお越しになった。
大将は得意顔で、このような親しい集まりで張り切っておられるのも、まことにじれったいことのようだが、お孫君たちは、どちらの側についても、進み出て雑用をなさる。籠に入れた果物が四十枝、折櫃に入れた物が四十。中納言をはじめとして、しかるべき人々が次々に受け取られた。杯が一巡し、若菜の吸い物が差し上げられる。御前には沈香の懸盤が四つ置かれ、杯の数々も優美に、今風に整えられていた。
朱雀院のご病気がまだすっかり治りきっておられないので、楽人などはお呼びにならない。笛などについては、太政大臣がその方面を整えなさって、
「世の中に、このお祝い以上に珍しく、清らかさを尽くすべきことはあるまい」
とおっしゃって、優れた音色の数々を前々から用意しておられたので、ひそやかに管弦の遊びが催された。
それぞれ楽器を差し上げる中で、和琴は、あの大臣が第一に秘蔵なさっていた琴であった。その道の名手が心を込めて弾き馴らした音で、並ぶものがないほどの琴なので、ほかの人は弾きにくくしておられるので、衛門督が固く辞退するのを、大臣がお責めになると、本当にたいそう見事に、ほとんど劣らないほどに弾く。
「何事も、名手の後継ぎとは言いながら、これほどには継げないものだなあ」と、人々は奥ゆかしくも感慨深くお思いになる。調子に従い、型のある手つきや、定まった中国の伝承などは、かえって尋ねて知る手立てが明らかなのに、心のままに、ただ掻き合わせた即興の演奏で、あらゆる楽器の音が調和しているのは、妙に見事で、不思議なほど響き渡る。
父大臣は、琴の弦もたいそう緩く張って、ずっと低く調弦し、響きを多く合わせて掻き鳴らなさる。これは、たいそうのどかに昇っていく音色が、親しみやすく愛嬌があるのを、「こんなふうには聞いたことがなかった」と、親王たちも驚かれる。
琴は兵部卿宮がお弾きになる。この琴は宜陽殿の御物で、代々第一の名声があった琴を、亡き院の晩年、一品宮がお好みになるということで、賜っていたものを、この折に清らかさを尽くそうとして、大臣が申し受けて伝わってきた来歴をお思いになると、たいそうしみじみと、昔のことも恋しく思い出される。
親王も、酔って泣くのを止められなかった。御前のご様子を察しなさって、琴を御前(源氏)に譲り申し上げなさる。源氏は情感をそのままにしておけず、珍しい曲を一つほどお弾きになると、大げさではないのに、この上なく見事な夜の管弦の遊びであった。
唱歌の人々を御階のもとに召して、優れた声を限りに出させると、反響して歌声が返ってくる。夜が更けていくにつれ、楽の調子も親しみやすく変わって、「青柳」を演奏なさる頃には、まことに、ねぐらの鶯も目を覚ましそうなほど、たいそう見事である。内輪の催しのように取り計らっておられたが、褒美などは、たいそう行き届いて用意されていたのだった。
明け方に、尚侍の君はお帰りになる。お贈り物などがあった。
「このように世を捨てたように明かし暮らすうちに、年月がどう過ぎたかも分からない顔をしているのに、このように数えて教えてくださったことにつけては、心細く思われます。
ときどきは、どちらが老いたか見比べていただきたいものです。このように古びた身の住まいの狭さのせいで、思うようにお目にかかれないのも、たいそう残念です」
などと申し上げなさって、しみじみともおかしくも、思い出してお話し申し上げることがないわけではないので、かえってほんの短い対面で、このように急いでお帰りになるのを、源氏はたいそう名残惜しく残念にお思いになったのだった。
尚侍の君も、源氏を本当の親と思うほどの宿縁だとお思い申し上げて、ありがたく行き届いていたお心配りを、年月がたつにつれ、こうして世に生き続けていらっしゃることにつけても、疎かでなく深くお思い申し上げていたのだった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第34冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。