ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第35帖 若菜下 / 第4場面

譲位と代替わり

あらすじ・人物・読み方

冷泉帝が譲位して春宮が即位し、太政大臣の引退や夕霧の右大臣就任など、代替わりが進む。源氏は冷泉院に後継ぎのないことを胸の内で案じ、明石の姫君は后として栄えるが、出家を願う紫の上を源氏はなお許さない。

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現代語で読む

はかなく月日が過ぎ、年月も重なって、内裏の帝〔冷泉帝〕は、御位にお即きになってから十八年におなりになった。

「後継ぎとなられるべき御子もいらっしゃらず、〔宮中も〕栄えがないので、世の中がはかなく感じられるのを、気楽に、思う人々にも対面し、私的な様子で心を慰めて、のどかに過ごしたいものだ」

と、長年お思いになりおっしゃっていたが、この頃たいそう重くお悩みになることがあって、にわかに譲位なさってしまった。世の人は、「名残惜しい盛りの御世を、このようにお逃れになることだ」と惜しみ嘆くけれど、春宮も成人なさっていたので、跡を継いで、世の中の政事なども、特に変わる区別もなかった。

太政大臣〔頭中将〕は、致仕の表を奉って、引き籠もってしまわれた。

「世の中の無常によって、賢い帝の君も位をお去りになったのに、年老いた身が冠をかけることが、何で惜しかろうか」

とお思いになりおっしゃって、左大将〔夕霧〕は右大臣におなりになって、世の中の政事をお執り申し上げていた。女御の君は、このような御世をお迎えになることもなく、お亡くなりになっていたので、〔太政大臣は〕この上ない御位を得なさったけれど、何となく後れを取る心地がして、甲斐がなかった。

六条の女御のお腹の一の宮が、春宮にお立ちになった。そうなるべきことと前々から思っていたけれど、いざとなるとやはり目出度く、目を見張る出来事だった。右大将の君〔紅梅〕は、大納言におなりになった。ますます理想的なご関係である。

六条院〔源氏〕は、譲位なさった冷泉院に、後継ぎがいらっしゃらないのを、物足りなくお心の中でお思いになる。同じ血筋ではあるが、思い悩むようなご事情ではなく、〔冷泉帝が〕お過ごしになっただけに、罪は隠れて、末の世までは伝えられそうもない御宿命を、残念で物足りなくお思いになるけれど、人にお話し合わせることもできないことなので、気が晴れないのである。

春宮の女御〔明石の姫君〕は、御子たちが大勢お生まれになって、ますますご寵愛は並ぶ者がない。源氏の一族が、続けて后にお立ちになるべきことを、世の人が物足りなく思っているにつけても、冷泉院の后は、理由もなく、無理に隠しておられた〔源氏の〕お心を思うと、ますます六条院のことを、年月を重ねるごとに、この上なくお思い申し上げていらっしゃった。

院の帝〔冷泉院〕は、お思いになっていたように、御幸も、窮屈でなくお出かけなどなさりながら、このようにして、本当に目出度く理想的なご様子である。

姫宮〔明石の姫君〕のことは、帝〔今上〕が、お心を留めてお思い申し上げていらっしゃる。世間一般にも、広く大事にされていらっしゃるけれど、対の上〔紫の上〕のご勢いには、勝ることがおできにならない。年月がたつにつれて、ご仲はたいそう麗しく睦まじく交わり合っていらして、少しも物足りないことはなく、隔てもお見えにならないものの、

「今は、このような大所帯の住まいではなく、のどかに勤行も、と思っています。この世はこれほどまでと、見届けてしまった心地がする年齢にもなってしまいました。ふさわしい様子にお思いになってお許しくださいね」

と、〔紫の上が〕真心を込めて申し上げなさる折々があるのを、

「あってはならない、辛いお話です。私自身にも、深い願いがあることですが、〔あなたが〕残って物足りなくお感じになり、生きている世で変わってしまうかもしれないお姿の、気がかりさゆえにこそ、生き長らえているのです。最期にその願いを遂げた後に、どうなりともお思いになってください」

などとばかり、〔源氏は〕お止め申し上げなさる。

女御の君〔明石の姫君〕は、ただこちら〔明石の君〕を、本当の親としてお扱い申し上げなさって、〔明石の君の〕お部屋は隠れ家のような後見の場として、控えめにしていらっしゃることこそが、かえって、将来が頼もしく目出度かったのである。

尼君〔明石の尼君〕も、どうかすると、堪えきれない喜びの涙が、ともすれば落ちながら、目までも拭い直して、長命で、嬉しそうな例となっていらっしゃる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第35冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。