源氏物語 第35帖
若菜下 わかなげ
あらすじ
冷泉帝が譲位し、世は今上帝の代へ移る。源氏は住吉に詣でて昔を偲び、朱雀院の五十の賀に備えて女三の宮に琴を授け、女楽の試みが催される。その夜から紫の上は重く病み、ついには六条御息所の死霊が姿を現す。一方、柏木は女三の宮への恋に身を持ち崩し、小侍従を頼って宮の御方へ忍び入り、過ちを犯す。源氏は柏木の文を見つけて胸に収め、柏木は恥と病に伏してゆく。
この帖の人物
場面 第1–5場面
第1場面帖の冒頭と賭弓女三の宮への思いを断ち切れない柏木は、せめて猫だけでも手に入れたいと願う。晦日の賭弓に参じた柏木のただならぬ物思いを、事情の一端を知る源氏は見て取り、不穏な兆しを案じる。第2場面唐猫柏木は女御や春宮のもとに参上し、猫の話をきっかけに、春宮が女三の宮の唐猫を取り寄せるよう仕向ける。やがてその猫を預かった柏木は、夜もそばに置いてかしづき、宮への思慕を猫に託して眺め入る。第3場面宮たちの求婚真木柱の姫君をめぐって、中務宮や兵部卿宮らが求婚するが、祖父宮は許さず、大宮や母君らの思惑が交錯する。兵部卿宮の通いは熱意に欠け、大宮は嘆き、尚侍の君も姫君の行く末を近くで見聞きする。第4場面譲位と代替わり冷泉帝が譲位して春宮が即位し、太政大臣の引退や夕霧の右大臣就任など、代替わりが進む。源氏は冷泉院に後継ぎのないことを胸の内で案じ、明石の姫君は后として栄えるが、出家を願う紫の上を源氏はなお許さない。第5場面住吉詣で源氏は住吉の願を果たすため、女御や紫の上らを伴って盛大に住吉へ詣でる。明石の尼君も忍んで同行し、源氏と歌を交わして往時を思い、夜通しの神楽と歌の応酬が続く。
場面 第6–10場面
第6場面紫の上の憂い朱雀院は出家修行に専念し、女三の宮の後見を源氏に託して宮の勢いは増す。一方紫の上は、源氏の心が移ることを恐れ、出家を願いながらも言い出せずにいる。孫たちに囲まれる中、女三の宮だけが若く穏やかなままである。第7場面琴の稽古朱雀院が女三の宮との対面を望み、源氏は若菜の宴の準備を進める。宮の琴の腕を心配した源氏は、夜ごとに熱心に琴を教え、女御もその稽古を聞きに退下するほどになる。第8場面女楽の試み源氏の四十の賀を控えた正月、源氏は六条院の女性たちによる女楽を試みる。明石の君の琵琶、紫の上の和琴、女御の箏、女三の宮の琴が合わさり、夕霧も加わって見事な合奏となる。源氏は琴の衰退を嘆き、宮の上達を喜ぶ。第9場面語らいの夜と発病女楽の後、源氏は紫の上と女三の宮の琴を語り合い、三十七歳になる紫の上へ今年は慎むよう勧め、来し方の女性たちを回想する。紫の上は出家の許しを請うが源氏は退ける。その夜更けから紫の上は胸を病み始める。第10場面二条院の看病女楽の翌朝から紫の上は胸を病み、発熱して臥せる。源氏は四十の賀の騒ぎも止めて祈祷に尽くし、出家を願う紫の上を引き止め続ける。二月が過ぎても回復せず、二条院へ移して看病するが、日ごとに弱っていく。
場面 第11–15場面
第11場面小侍従への頼み中納言となった柏木は、女三の宮への思いを断ち切れず、二の宮を妻に迎えても慰められない。小侍従を迎えては宮の様子を聞き、物越しに一言でも思いを伝えたいと、身に代えるほどの誓いを立てて手引きを頼む。第12場面忍び入り小侍従の手引きで柏木は女三の宮の寝所に忍び入り、長年の思いを訴えて一夜を過ごす。明け方、宮の返歌に魂を置いてきたような心地で退出する。第13場面葵祭のころ過ちを犯した柏木は表に出ることもできず苦しみ、女三の宮も源氏の見舞いに恥じらうばかりである。葵祭の日、柏木は葵を見て独詠し、女宮は箏を弾きながら書きすさぶ。第14場面もののけ紫の上が息絶えたと報せが届き、源氏は二条院へ駆けつける。物の怪は童女に移って姿を現し、六条御息所の死霊として恨みと願いを語る。第15場面誤報と受戒紫の上死去の誤報が世に広まり、柏木や式部卿宮らが見舞いに参る。源氏は紫の上に五戒を受けさせ、法華経の供養を重ね、六月になってようやく回復の兆しが見える。
場面 第16–20場面
第16場面蓮の歌病に沈む女三の宮を源氏が見舞い、池の蓮を前に歌を交わす。源氏は二、三日逗留し、宮の懐妊を疑いながらもいじらしい様子を見守る。第17場面文の発覚柏木の文が女三の宮の茵の下から見つかり、源氏は筆跡を見抜く。宮と小侍従は発覚に震え上がり、源氏は知らぬ顔を続ける。第18場面源氏の内省文を読み返した源氏は、柏木の不用意さと宮への思いに心を乱し、かつて藤壺との間に犯した自らの過ちを重ねて思い返す。紫の上とは宮への気遣いをめぐって言葉を交わす。第19場面柏木の病文の発覚を知った柏木は、源氏への恥と恐れに病み伏して内裏へも参らない。源氏は宮を変わらず労わりながらも、心の隔たりに苦しみ続ける。第20場面玉鬘の出家玉鬘がついに出家した知らせを聞いた源氏は、須磨の昔を詠んだ歌を贈って後れを詫びる。玉鬘も明石の昔を詠んで返し、源氏は紫の上に、娘を育てる難しさや若宮の養育を語り、玉鬘のための法服や尼の道具を忍んで調えさせる。
場面 第21–22場面
出典・底本
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第35冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。