ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第35帖 若菜下 / 第8場面

女楽の試み

あらすじ・人物・読み方

源氏の四十の賀を控えた正月、源氏は六条院の女性たちによる女楽を試みる。明石の君の琵琶、紫の上の和琴、女御の箏、女三の宮の琴が合わさり、夕霧も加わって見事な合奏となる。源氏は琴の衰退を嘆き、宮の上達を喜ぶ。

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現代語で読む

院〔源氏〕の四十の賀は、まず朝廷からなさることどもが煩わしいので、差し迫っては都合が悪いと思われて、少し時期を過ごしなさる。二月十余日とお定めになって、楽人、舞人などが参り続けて、管弦の遊びが絶えない。

「この対で、いつも聞きたいと思う御琴の音を、どうにかあの人々の箏、琵琶の音も合わせて、女楽を試みさせよう。今の物の上手どもこそ、決してこの辺りの人々の御心遣いどもに勝らない。

はかばかしく伝え取ったことは、ほとんどないけれど、何事も、どうにか心に知らないことがあってはならないと、幼い頃に思ったので、世にある物の師という限り、また高い家々の、相応の人の伝えどもをも、残さず試みした中に、たいそう深く恥ずかしいなと思われるほどの人はいなかった。

その昔よりも、また最近の若い人々の、洒落て風流ぶって過ごすのに、また浅くなってしまっただろう。琴は、まして、決して学ぶ人がいなくなってしまったとか。この御琴の音だけでも伝えた人、ほとんどいないだろう」

とおっしゃると、〔女三の宮は〕何心なく微笑んで、嬉しく、「このように許しなさるほどになったのだ」とお思いになる。

二十一、二歳ほどにおなりだけれど、やはりたいそうひどく未熟で、幼い心地がして、細く儚げに美しくばかり見えなさる。

「院〔朱雀院〕にもお目見え申し上げなさらずに年を経たのを、成長なさったとご覧になるほど、用意を加えてお目見え申し上げなさい」

と、折に触れてお教え申し上げなさる。

「本当に、このようなご後見がなければ、まして幼くていらっしゃる御様子は、隠れなかっただろう」

と、人々も拝見する。

正月二十日ほどになれば、空も趣のあるほどに、風が暖かく吹いて、御前の梅も盛りになっていく。大方の花の木どもも、皆色づいて、霞み渡ってしまった。

「月が経てば、ご準備が近く、物騒がしいだろうに、掻き合わせなさる御琴の音も、試楽のようで人が言うだろうを、この頃の静かなうちにお試みなさい」

と言って、寝殿にお移し申し上げなさる。

お供に、自分も自分もと、物見たがって、参り上がりたがるけれど、こちらに遠い者は、選んで留めさせなさって、少し年を取っているけれど、風情のある限りを選んでお仕えさせなさる。

童女は、容貌の優れた四人、赤色に桜の汗衫、薄色の織物の衵、浮紋の表の袴、紅の摺ったもの、様子や振る舞いの優れた限りをお召しになった。女御のお方でも、ご準備などが、ますます改まった頃の曇りがないのに、それぞれ競い合うように、尽くした装いどもが、鮮やかで二つとない。

童は、青色に蘇芳の汗衫、唐綾の表の袴、衵は山吹色の唐の綺を、同じ様子に整えた。明石のお方のは、仰々しくなく、紅梅二人、桜二人、青磁の限りで、衵は濃く薄く、摺り目など言いようもなく着せなさった。

宮のお方でも、このように集まりなさるべくお聞きになって、童女の姿だけは、特に整えさせなさった。青丹に柳の汗衫、葡萄染の衵など、特に好ましく珍しい様子ではないけれど、大方の気配の、厳めしく気高いことまで、たいそう並ぶものがない。

廂の中の御障子を放って、こちらあちら御几帳ばかりを境にして、中の間は、院がおいでになるべき御座を設けた。今日の拍子合わせには童をお召しになろうと、右の大殿の三郎、尚侍の君のお腹の兄君に笙の笛、左大将の御太郎に横笛と吹かせて、簀子にお仕えさせなさる。

内には、御茵どもを並べて、御琴どもを参らせ渡す。秘しなさる御琴どもを、端正な紺地の袋どもに入れたのを取り出して、明石のお方に琵琶、紫の上に和琴、女御の君に箏の御琴、宮には、このように仰々しい琴はまだ弾きなさらないかと危ぶんで、いつもの手慣らしなさったのを、調べて差し上げなさる。

「箏の御琴は、緩むことはないけれど、やはり、このように物に合わせる折の調べにつけて、琴柱の立つ所が乱れるものだ。よくその心遣いを整えるべきなのを、女は張り鎮められまい。やはり、大将をこそお召し寄せになるべきようだ。この笛吹きどもは、まだたいそう幼げで、拍子を整える頼みが強くない」

と笑いなさって、

「大将、こちらに」

とお召しになると、御方々は恥ずかしく、心遣いしておいでになる。明石の君を除いては、どれも皆捨てがたい御弟子どもなので、御心を加えて、大将がお聞きになるのに、難がないだろうと思われる。

「女御は、常に上〔帝〕がお聞きになるのにも、物に合わせながら弾き慣らしなさっているので、後ろ安いのに、和琴こそ、どれほどでもない調べだけれど、跡の定まったことがなくて、かえって女が辿り着くだろう。春の琴の音は、皆掻き合わせるものなのに、乱れる所もあるか」

と、生半可に気の毒に思われる。

大将〔夕霧〕は、たいそうひどく心に懸想して、御前の仰々しく、端正な御試みがあるよりも、今日の心遣いは特に勝って思われなさるので、鮮やかな御直衣、香に染みた御衣ども、袖をひどく焚き締めて、引き整えて参りなさるうちに、暮れ果ててしまった。

風情ある黄昏時の空に、花は去年の古雪を思い出させられて、枝も撓むほど咲き乱れた。緩やかに吹く風に、言いようもなく匂った御簾の内の香りも吹き合わせて、鶯を誘う端にしつらえるべく、素晴らしい御殿の辺りの匂いである。御簾の下から、箏の御琴の裾が、少し差し出て、

「軽々しいようだけれど、これの緒を整えて、調べをお試みなさい。ここにまた疎い人の入るべき様子もないのに」

とおっしゃると、畏まって賜わりなさるほど、用意が多く目安くて、「壱越調」の声に最初の緒を立てて、ふとも調べないでお仕えなさると、

「やはり、掻き合わせだけは、手一つ、興ざめでないように」

とおっしゃると、

「全く、今日の御遊びの差し入れに、交じるほどの手遣いは、覚えずにおりました」

と、様子を構えなさる。

「そういうこともあるけれど、女楽に琴を混ぜられずに逃げてしまったと、伝わる名こそ惜しい」

と言って笑いなさる。

調べ終わって、趣のあるほどに掻き合わせだけ弾いて、差し上げなさった。この御孫の君達の、たいそう美しい宿直姿どもで、吹き合わせた物の音どもは、まだ若いけれど、将来性があって、素晴らしく趣がある。

御琴どもの調べどもが整い終わって、掻き合わせなさるほど、どれともない中で、琵琶は優れて上手らしく、神々しい手遣いが、澄み果てて面白く聞こえる。

和琴に、大将も耳を留めなさると、懐かしく愛敬のある御爪音に、掻き返した音が、珍しく今風で、全くこのわざとある上手どもの、仰々しく掻き立てた調べ調子に劣らず、賑やかで、「大和琴にもこのような手があったのだ」と聞き驚かれる。深い御労のほどがはっきりと聞こえて、面白いので、大殿は御心が落ち着いて、たいそう有り難く思い申し上げなさる。

箏の御琴は、物の隙々に、心もとなく漏れ出る物の音柄で、美しげに艶やかにばかり聞こえる。

琴〔女三の宮〕は、やはり若い方だけれど、お習いになる盛りなので、たどたどしくなく、たいそうよく物に響き合って、「優雅になった御琴の音だな」と、大将はお聞きになる。拍子を取って唱歌をなさる。院も、時々扇を打ち鳴らして、加えなさる御声が、昔よりも素晴らしく面白く、少し不器用に、ものものしい気が添って聞こえる。大将も、声がたいそう優れなさった人で、夜の静かになっていくままに、言いようもなく懐かしい夜の御遊びである。

月が心もとない頃なので、灯籠をこちらあちらに懸けて、火の良いほどに灯させなさった。

宮のお方を覗きなさると、人より格別に小さく美しげで、ただ御衣ばかりがある心地がする。匂いやかな方は後れて、ただたいそう上品に趣があり、二月の中の十日ほどの青柳が、わずかに枝垂れ始めたような心地がして、鶯の羽風にも乱れそうに、儚げに見えなさる。

桜の細長に、御髪は左右からこぼれかかって、柳の糸の様子をしている。

「これこそは、限りない人の御様子であるようだ」と見えるのに、女御の君は、同じような御艶やかな姿が、今少し匂いが加わって、振る舞いの気配が奥ゆかしく、風情のある様子をなさって、よく咲きこぼれた藤の花が、夏にかかって、傍らに並ぶ花がない、明け方の心地がなさっている。

それは、たいそうふっくらとしたほどにおなりになって、苦しく思われなさったので、御琴も押しやって、脇息に寄りかかりなさった。小さく撓んでかかりなさっているのに、御脇息はいつものほどなので、届いた心地がして、特に小さく作りたいと見えるのが、たいそうしみじみとしていらっしゃった。

紅梅の御衣に、御髪のかかりがはらはらと清らかで、灯影の御姿が、世にないほど美しげなのに、紫の上は、葡萄染だろうか、色の濃い小袿、薄蘇芳の細長に、御髪の溜まったほどが、ごてごてと緩やかに、大きさなどが良いほどに、様子が理想的で、辺りに匂いが満ちた心地がして、花と言えば桜に喩えても、やはり物より優れた気配が、特になさっている。

このような御辺りに、明石は圧倒されるべきなのに、たいそうそうでもなく、振る舞いなどが様子を構えて恥ずかしく、心の底が知りたい様子をして、なんとなく上品に艶やかに見える。

柳の織物の細長、萌黄だろうか、小袿を着て、羅の裳の儚げなのを引っ掛けて、特に卑下しているけれど、気配や、思いなしも、奥ゆかしく侮りがたくない。

高麗の青地の錦の端を刺した茵に、真正面に座って、琵琶を置いて、ただ様子ばかり弾きかけて、優美に使い慣らした撥の扱いが、音を聞くよりも、また有り難く懐かしくて、五月を待つ花橘が、花も実も備えて押し折れる薫りが思われる。

これもあれも、打ち解けない御気配どもを聞き見なさると、大将も、たいそう内側を知りたく思われなさる。対の上〔女三の宮〕の、見た時よりも、成長なさっただろう様子を知りたくて、静かな心もない。

「宮を、今少し前世の因縁が及んでいたら、自分のものとしても拝見しただろう。心がたいそう鈍いのが悔しいな。院は、たびたびそのように仕向けて、陰口に仰せになったのに」と、妬ましく思うけれど、少し心安い方に見えなさる御気配に、侮り申し上げるとはないけれど、たいそう心は動かなかった。

この御方〔紫の上〕を、何事も思い及ぶべき方がなく、気遠くて、年頃が過ぎたので、「どうにか、ただ大方に、心を寄せる様子でもお見せ申し上げよう」とばかりの、残念で嘆かしいのであった。無理に、あるまじく大それた心地などは、全くなさらず、たいそうよく収めなさった。

夜が更けていく気配が、冷ややかである。臥し待つ月がわずかに差し出た、

「心もとないな、春の朧月夜よ。秋のしみじみさは、また、このような物の音に、虫の声を縒り合わせたのが、ただならず、格別に響き添う心地がするよ」

とおっしゃると、大将の君は、

「秋の夜の隈のない月には、万の物に滞りがないのに、琴や笛の音も、明らかに澄んだ心地はしますけれど、やはり特に作り合わせたような空の景色、花の露も、色々に目移りし心が散って、限りこそあります。

春の空のたどたどしい霞の間から、おぼろな月影に、静かに吹き合わせたようには、どうしてでしょうか。笛の音なども、艶やかに澄み上り果てません。

女は春をしみじみすると、古い人が言い置きました。本当に、そのようです。懐かしく物が整うことは、春の夕暮れこそ特にあります」

と申し上げなさると、

「いや、この論争よ。昔より人が分けかねたことを、末の世に下った人が、明らかにし果てられまい。物の調べ、曲のものどもは、本当に律を次のものにしたのは、そういうこともあるだろう」

などとおっしゃって、

「どうだ。今、有職の評判が高い、その人あの人が、御前などで、たびたび試みさせなさるのに、優れた者は数少なくなっているようだが、その大家と思える上手どもが、どれほど学び取れないのだろうか。このようにほのかな女たちの御中に弾き混ぜたら、際立って離れるべくは思われない。

年頃このように埋もれて過ごすのに、耳なども少し僻んでしまったのだろうか、残念だ。妙に、人の才能は、儚く取り上げることどもが、物の栄えがあって勝る所である。その、御前の御遊びなどに、一きざみに選ばれる人々は、それあれとどうだろう」

とおっしゃると、大将は、

「それを、取り申そうと思っておりましたが、明らかでない心のままに、大人びてかと思いなさる。上った世を聞き合わせませんので、衛門督の和琴、兵部卿宮の御琵琶などを、最近珍しい例に引き出しておりますようです。

本当に、傍らにないのを、今宵承る物の音どもが、皆等しく耳を驚かせますのは。やはり、このようにわざともない御遊びと、前もって思い怠けていた心が騒ぐのでしょうか。唱歌など、たいそうお仕えしにくくて。

和琴は、あの大臣〔源氏〕だけこそ、このように折につけて、作り靡かせた音などを、心に任せて掻き立てなさるのは、たいそう格別になさって、ほとんど際立たないものにありますのを、たいそう立派に整っておりました」

と、褒め申し上げなさる。

「たいそう、それほど仰々しい際ではないのに、わざと端正にも取りなされるな」

と言って、したり顔に微笑みなさる。

「本当に、悪くはない弟子どもだよ。琵琶は、ここに口を入れるべきことが混じらないのに、そうは言っても、物の気配が異なるだろう。覚えない所で聞き始めた時に、珍しい物の声だなと思ったけれど、その時よりは、また格別に優ってしまったのか」

と、せめて自分の賢さに託けてなさると、女房などは、少し突き合う。

「万のこと、道々につけて習い学べば、才能というものは、どれも際限なく思われながら、自分の心地に飽きるべき限りがなく、習い取ることはたいそう難しいけれど、何かは、その辿りの深い人が、今の世にほとんどいないので、片端を滑らかに学び得た人、その方面の才に心をやってもありそうなのに、琴は、やはり煩わしく、手に触れにくいものがあった。

この琴は、本当に跡のままに尋ね取った昔の人は、天地を靡かし、鬼神の心を和らげ、万の物の音のうちに従って、悲しみの深い者も喜びに変わり、卑しく貧しい者も高い世に改まり、宝に与り、世に許される類が多かった。

この国に弾き伝える最初の頃まで、深くこの事を心得た人は、多くの年を知らない国に過ごし、身をないものにして、この琴を学び取ろうと迷ってさえ、し得るのは難しいのであった。本当にまた、明らかに空の月星を動かし、時でない霜雪を降らせ、雲雷を騒がせた例は、上った世にはあった。

このように限りないもので、そのままに習い取る人の有り難く、世の末なので、どこのその昔の片端にあるだろうか。しかし、やはり、あの鬼神が耳を留め、傾き始めたものなので、生半可に学んで、思いが叶わない類があった後、これを弾く人は、良くないとかいう難をつけて、煩わしいままに、今はほとんど伝える人がないとか。たいそう残念なことであるよ。

琴の音を離れては、何の琴を物事を調え知る手引きとしようか。本当に、万のことの衰える様子は、安くなっていく世の中に、一人出て離れて、心を立てて、唐土、高麗と、この世に迷い歩き、親子を離れることは、世の中に僻んだ者になってしまうだろう。

どうして、普通で、やはりこの道を通わせ知るほどの端を、知っておかないことがあろうか。調べ一つに手を弾き尽くそうことさえ、計りもないものである。まして、多くの調べ、煩わしい曲が多いのを、心に入った盛りには、世にあるとある、ここに伝わった譜というものの限りを広く見合わせて、後々は、師とすべき人もなくて、好んで習ったけれど、やはり上った人には、当たるべくもないだろう。まして、この後と言っては、伝わるべき末もない、たいそうしみじみと」

などとおっしゃると、大将は、本当にたいそう残念で恥ずかしいと思われる。

「この御子たちの御中に、思うように成長なさる方がいらっしゃれば、その世に、そもそもそれまで長らえ留まるようであれば、どれほどでもない手の限りも、留め申し上げるべきだ。三の宮は、今から様子があって見えなさるのを」

などとおっしゃると、明石の君は、たいそう重々しく、涙ぐんで聞いておいでになった。

女御の君は、箏の御琴を、上〔紫の上〕にお譲り申し上げて、寄り臥しなさったので、和琴を大殿の御前に参らせて、親しい御遊びになった。「葛城」をお遊びになる。華やかで面白い。大殿が折り返して謡いなさる御声は、例えようもなく愛敬があって素晴らしい。

月が次第に差し上るままに、花の色香も持て囃されて、本当にたいそう奥ゆかしいほどである。箏の琴は、女御の御爪音は、たいそう可愛げに懐かしく、母君の御気配が加わって、揺の音が深く、素晴らしく澄んで聞こえたのに、この御手遣いは、また様子が変わって、緩やかに面白く、聞く人がただならず、そぞろなまでに愛敬があって、輪の手など、すべて全く、たいそう才のある御琴の音である。

返り声に、皆調べが変わって、律の掻き合わせどもが、懐かしく今風なのに、琴〔女三の宮〕は、五個の調べ、数多くの手の中に、心を留めて必ず弾きなさるべき五、六の発剌を、たいそう面白く澄まして弾きなさる。全く不完全でなく、たいそうよく澄んで聞こえる。

春秋万の物に通じる調べで、通わせ渡しながら弾きなさる。心遣い、お教え申し上げる様子と違えず、たいそうよく弁えなさっているのを、たいそう美しく、重々しく思い申し上げなさる。

この君達が、たいそう美しく吹き立てて、切に心を入れたのを、可愛がりなさって、

「眠たくなってしまっただろう。今宵の遊びは、長くはなくて、僅かなほどにと思っていたのに。留めがたい物の音どもの、どれともないのを、聞き分けるほどの耳が利かないたどたどしさに、ひどく更けてしまった。心ない業だな」

と言って、笙の笛を吹く君に、土器を差しなさって、御衣を脱いでお与えになる。横笛の君には、こちらから、織物の細長に、袴など仰々しくない様子に、様子ばかりで、大将の君には、宮のお方から、杯を差し出して、宮の御装束一領をお与え申し上げなさるのを、大殿は、

「妙だな。物の師をこそ、まずは物らしくなさるべきだ。情けないことだ」

とおっしゃるのに、宮がいらっしゃる御几帳の傍らから、御笛を差し上げる。微笑みなさってお取りになる。素晴らしい高麗笛である。少し吹き鳴らしなさると、皆立ち出なさるうちに、大将は立ち止まりなさって、御子が持ちなさった笛を取って、素晴らしく面白く吹き立てなさったのが、たいそう素晴らしく聞こえるので、どれもどれも、皆御手を離れない物の伝え伝えで、たいそう二つとないばかりであるので、自分の御才能のほどが、有り難く思い知らされた。

大将殿は、君達を御車に乗せて、月の澄んだのに退出なさる。道すがら、箏の琴の変わって素晴らしかった音も、耳について恋しく思われなさる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第35冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。