第36帖 柏木 / 第4場面
宮の苦衷と源氏の隔意
あらすじ・人物・読み方
源氏は宮のもとに夜は泊まらず、昼に様子をうかがうだけになる。宮は生きてはいられない心地を訴え、尼になりたいと繰り返す。源氏は内心では出家させるのもよいかと思い寄せながらも、惜しさに慰めて翻意を促す。
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現代語で読む
夜なども、こちら〔宮のもと〕には大殿〔源氏〕はお泊まりにならず、昼頃などにのぞきなさる。
「世のはかなさを見るにつけ、行く末は短く、何かと心細くて、勤行がちになっておりますので、こうした時期の騒々しい心地がするので参れなかったのですが、いかがですか、お心地はさっぱりとよくなられましたか。〔お加減が〕心苦しく〔案じられます〕」
と言って、御几帳の側からのぞきなさった。〔宮は〕お頭をもたげなさって、
「やはり、生きてはいられない心地がいたしますし、こういう人は罪も重いのです。尼になって、もしそれで生きながらえるか試し、また亡くなるとしても、罪が消えることもあるかと思っております」
と、いつものご様子よりは、とても大人びて申し上げなさるのを、
「ひどく忌まわしい、不吉なお言葉です。どうして、そこまではお思いになるのですか。こういうことは、それほど恐ろしいことではありますが、長生きできないことならばともかく」
と〔源氏は〕申し上げなさる。〔源氏の〕お心のうちには、
「本当にそう思い寄っておっしゃるなら、そのように〔尼姿で〕拝見するのは、しみじみとよいだろう。かつ〔このまま〕見ながらも、何かにつけて隔て置かれなさるのが心苦しく、自分でも思い直せそうになく、つらいことが混じってしまうだろうし、自然と疎かにしていると人が見咎めることもあるだろうのがひどく気の毒で、院〔朱雀院〕などがお聞きになることも、私の怠慢にだけなるだろう。ご病気を口実に、そのように〔尼に〕してさしあげようか」
などと思い寄せなさるが、また、ひどく惜しく、しみじみと、これほど長い御髪の伸びゆく先を、そのように剃り落とすのも心苦しいので、
「やはり、強くお思い直しなさい。悪くはおなりにならないでしょう。死ぬかと見える人も、平癒した例が近いので、やはり頼みのある世の中です」
などと申し上げて、〔宮に〕御湯を差し上げなさる。ひどく青ざめて痩せて、あさましく頼りなげに臥せっていらっしゃるご様子が、おっとりとして、美しそうなので、
「どんなひどい過ちがあっても、心弱く許してしまいそうなご様子だな」
と拝見なさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第36冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。