ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第36帖 柏木 / 第6場面

剃髪と受戒

あらすじ・人物・読み方

朱雀院は源氏への積年の案じを表に出さず、宮の後見を源氏に委ねた証として宮を源氏のもとに置くことを決め、せめて受戒だけでもと勧める。源氏は剃髪を思いとどまらせようとするが宮の決意は固く、夜明け方に尊い僧たちを呼んで宮の髪を下ろし、受戒させる。

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現代語で読む

〔院の〕お心の中では、限りなく安心して〔宮を〕お譲りになったことを、〔源氏が〕お引き受けになりながら、それほど心から大切にもせず、自分の思うようでないご様子を、何かにつけて長年お聞きになり案じ続けてきたことが、顔に出して〔源氏を〕お恨み申し上げるべきでもないので、世の人が思い言うだろうことも残念にお思い続けてきたところに、

「こんな折に、〔宮を〕突き放してしまうのも、どうして、人笑いになるだけで、世を恨んだ様子だなどとは言えまい。大方の後見人としては、やはり頼りにされるべき方なのだから、ただお預け申し上げた証として思いなして、憎らしく背く様子ではないにしても、ご処分として広く立派な宮を賜っていらっしゃるのを、整えてお住まわせ申し上げよう。

私が生きている間に、そういう形でも、安心して聞いておき、またあの大殿も、そうは言っても、ひどく疎かには決してお思い離しなさるまい、そのお気持ちをも最後まで見届けよう」

と〔院は〕お決めになって、

「それならば、こうして来たついでに、せめて受戒なさるだけでも、結縁としよう」

とおっしゃる。

大殿の君〔源氏〕は、辛いと思う気持ちも忘れて、これはどうなることかと、悲しく残念なので、堪えきれず、内に入って、

「どうして、長くも生きられそうにない身を振り捨てて、このようにお思いになってしまったのですか。やはり、しばらく心をお静めになって、御湯を召し上がり、物なども召し上がってください。尊いことでも、お身体が弱くては、修行もなさりきれますか。まずは、お身なりを整えなさってこそ〔ふさわしいでしょう〕」

と申し上げなさるが、〔宮は〕頭を振って、たいそう辛そうにおっしゃると思われた。〔源氏が〕素知らぬ顔をしていて、恨めしいとお思いになることもあったのだろうかと拝見なさると、気の毒で心が痛む。あれこれ申し上げ返し、〔宮が〕思い迷っていらっしゃるうちに、夜明け方になった。

〔院が〕お帰りになるのに、道も昼はみっともなかろうと急がせなさって、御祈りに伺候する中で、格別に尊い方々だけをお呼び入れて、〔宮の〕御髪をお下ろしさせなさる。たいそう盛んで清らかな御髪を削ぎ捨てて、受戒なさる作法は、悲しく残念なので、大殿は堪えきれず、ひどくお泣きになる。

院もまた、もとより格別に大切に、誰よりも優れて拝見しようとお思いだった〔宮〕を、この世では甲斐なく失い申し上げるのも、飽き足らず悲しいので、しおれておいでになる。

「こうなっても、平穏でいて、どうせなら念誦をもお勤めください」

と申し上げ置きなさって、すっかり明けてしまったので、急いでお出ましになった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第36冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。