第36帖 柏木 / 第7場面
もののけの退去
あらすじ・人物・読み方
朱雀院の訪問を受けた女三の宮は弱りきって応えることもできず、源氏は宮に代わって院へ御礼を述べる。院は宮の行く末を源氏に託し、源氏は恐縮して答える。後夜の加持に物の怪が現れて去ると告げ、宮は少し息を吹き返すが、なお頼りない様子であった。
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現代語で読む
〔女三の宮は〕なお弱って消え入りそうでいらして、はっきりと〔源氏を〕拝見することもできず、何も申し上げなさらない。大殿〔源氏〕も、
「夢のように思い乱れる心の惑いのために、このように昔を思い出させるご訪問への御礼も〔宮に〕ご覧いただけなかった失礼については、わざわざ参上いたしました〔次第です〕」
と〔朱雀院に〕申し上げなさる。〔院の〕お見送りに人々を参上させなさる。
「〔私の命が〕今日か明日かと思われていた頃、〔宮が〕知る人もなく漂うことが哀れで避けがたく思われましたので、〔宮の〕ご本意ではなかったでしょうが、このようにお願いして、長年安心しておりましたが、もし〔宮が〕生き長らえたら、姿を変えて〔出家し〕、人の多い住まいはふさわしくないでしょうし、適当な山里などに離れた様子も、やはり心細いことでしょう。様子に応じて、なお、見放さないでください」
などと〔院が〕申し上げなさると、
「これほどまでおっしゃることは、かえって恥ずかしく思われます。乱れた心地で、あれこれ乱れておりまして、何事も弁えることができません」
と言って、本当に、たいそう堪えがたそうにしていらした。
後夜のご加持のとき、ご物の怪が出て来て、
「このようなことだよ。ずいぶん賢く取り返したと思って、一人〔女三の宮〕を狙っていたが、たいそう妬ましかったので、このあたりに、何気なく日頃控えていた。今は帰ろう」
と言って、笑う。たいそうあきれたことに、
「それでは、この物の怪はここにも、離れずにいたのだろうか」
と〔源氏が〕お思いになると、気の毒で悔しく思われる。宮は、少し息を吹き返しなさるようだが、なお頼りなく見えなさる。控える人々も、たいそう甲斐なく思われるけれど、「こうでも、せめて無事でいらっしゃれば」と祈りつつ、ご修法をまた延ばして、絶え間なく行わせなど、あらゆることをさせなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第36冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。