第37帖 横笛 / 第1場面
柏木の死を悼む
あらすじ・人物・読み方
柏木がはかなく亡くなった悲しみは尽きず、多くの人が恋い慕っている。六条院でも源氏が故人をしのび、後事を手厚く営むうち、内大臣はその心遣いに感謝する。朱雀院は女二の宮や入道の宮の身を案じながらも、ひそかに思い続けている。
下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。
表示と音声の設定
現代語で読む
亡くなった権大納言〔柏木〕がはかなくお亡くなりになった悲しさを、いつまでも残念なこととして、恋い慕っていらっしゃる人が多かった。六条院でも、〔源氏は〕一般論としても、世に立派な人が亡くなるのを惜しみなさるお心なのに、ましてこの人〔柏木〕は、朝夕親しく参上して慣れ親しみ、人よりも心を留めてお思いになっていたので、どうしたことかと、思い出されることはありながら、哀れに思うことが多く、折々に偲んでいらっしゃる。
〔柏木の〕ご命日の法要にも、読経などを、格別におさせになる。何も知らない顔で幼くていらっしゃるご様子〔若君〕をご覧になるにつけても、やはりひどく哀れなので、〔源氏は〕お心のうちに、また特別にお志しになって、黄金百両を別にお包ませなさったのであった。大臣〔内大臣〕は、〔その真の〕事情も知らずに、畏まってお礼を申し上げなさる。
大将の君〔夕霧〕も、いろいろなことを多くなさって、仕切って丁寧に〔法事を〕営んでいらっしゃる。あの一条の宮〔落葉の宮方〕をも、このたびのお心遣い深くお見舞い申し上げていらっしゃる。兄弟の君たちよりも勝ったお心遣いのほどを、これほどとは思い申していなかったと、大臣〔内大臣〕も上〔北の方〕も、お喜び申し上げていらっしゃる。亡くなった後にも、世間の評判が高くいらっしゃったほどがうかがえるので、ひどく惜しくばかり、〔内大臣は〕思い焦がれることが尽きない。
山の帝〔朱雀院〕は、二の宮〔女二の宮〕も、このように世間の笑いものになるようなありさまで暮らしていらっしゃることよ、入道の宮〔女三の宮〕も、この世の人らしい面は、かけ離れてしまわれたので、さまざまに物足りなくお思いになるけれども、すべてこの世のことを思い悩むまいと、堪えていらっしゃる。ご修行の面でも、「同じ道を勤めていらっしゃるのだろう」などと推し量って、このようなお姿〔出家〕になって以後は、些細なことについても、絶えずお便りを申し上げていらっしゃる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第37冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。