第37帖 横笛 / 第2場面
朱雀院の文と女三の宮の返歌
あらすじ・人物・読み方
朱雀院が女三の宮へ、筍や野老に添えて、出家への思いを詠んだ歌の文を送る。居合わせた源氏は、宮が書き直した返歌の紙を見て、宮が世にあらぬ所を求める様子を心配して申し上げる。
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現代語で読む
〔朱雀院が〕お寺のそば近くの林に芽を出した筍や、そのあたりの山で掘った野老などは、山里にちなむものとして趣があるので、〔女三の宮に〕差し上げなさるということで、お手紙の情のこもった端に、「春の野山は、霞もおぼつかないけれど、〔私が〕心を込めて掘り出させました証しばかりです。〔私が〕この世を離れて入ってゆくであろう道に遅れるとしても、同じところをあなたも尋ねてほしい。〔同じ道をたどるのは〕たいそう難しいことなのです」
〔朱雀院が〕そう申し上げなさっている〔手紙〕を、〔女三の宮が〕涙ぐんでご覧になっているところに、大殿の君〔源氏〕がお渡りになった。いつもと違い、御前に近い櫑子などを、「どうしたことか、不思議だ」と〔源氏が〕ご覧になると、院〔朱雀院〕の御文であった。〔源氏が手紙を〕ご覧になると、たいそう心を打つものであった。
「今日か明日かという心地がするのに、対面したい気持ちが叶わないこと」などと、〔朱雀院は〕細やかに書かせなさっていた。この「同じところ」へのお伴れの言葉には、とりわけ興をそそる節もない。出家の言葉とはいえ、「なるほど、〔院は〕さぞそうお思いだろう。私までも疎かにしているように〔宮に〕お見え申し上げて、たいそう気がかりなお思いが加わりそうなのを、たいそうお気の毒に」と〔源氏は〕お思いになる。
〔女三の宮は〕お返事を慎ましやかに書かれて、御使いには、青鈍の綾を一襲お与えになる。〔宮が〕書き直しなさった紙が、御几帳のそばからかすかに見えるのを、〔源氏が〕取ってご覧になると、お筆跡はたいそう頼りなげで、憂き世ではないところが慕わしくて、この世を背く山路へ思いを入れたいほどです。
「〔宮の〕気がかりなご様子であるのに、この世にあらぬ所を求めなさるのは、たいそう嘆かわしく、心配だ」と〔源氏は宮に〕申し上げなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第37冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。