ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第37帖 横笛 / 第6場面

帰邸と雲居雁のすね

あらすじ・人物・読み方

一条の宮から帰った夕霧は、皆が寝静まった邸で、寝たふりをする雲居雁に催馬楽を歌いかけ、格子を開けて横になる。笛を吹きながら落葉の宮や御息所、亡き柏木のことを思い巡らし、強く出る雲居雁の態度も、睦まじく過ごした年月を思えばもっともだと納得する。

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現代語で読む

〔夕霧が〕邸にお帰りになると、格子などは下ろさせて、〔皆は〕もう寝てしまっていた。

「この宮〔落葉の宮〕に心をお寄せ申し上げなさって、このように熱心に申し上げなさるのですよ」

などと、人が〔雲居雁に〕告げ知らせたので、このように〔夕霧が〕夜更かしなさるのも少し憎らしくて、〔夕霧が〕お入りになるのを聞きながら、〔雲居雁は〕寝たふりをして いらっしゃるのだろう。

「妹と私とがいる佐野の山の〔…〕」〔催馬楽の歌詞〕

と、声はとても趣があって、独り言のように歌って、

「これは、どうして、こんなに戸締まりを固くしているのか。ああ、埋もれてしまうよ。今夜の月を見ない里もあったものだなあ」

と、嘆いていらっしゃる。格子を上げさせなさって、御簾を巻き上げるなどなさって、端近くに横におなりになった。

「このような夜の月に、安心して夢を見る人は、いるものか。少し〔こちらへ〕出ていらっしゃい。ああ、情けない」

など申し上げなさるけれど、〔雲居雁は〕不快に思って、聞こえないふりをして我慢していらっしゃる。

子供たちが、幼く寝驚いた気配などが、あちこちにして、女房も入り混じって横になっている、人の気配が賑やかなのと、先ほどいた所〔一条の宮〕の様子を、思い比べると、大きく違っている。この笛を吹いていらっしゃりながら、

「どのように、〔落葉の宮は〕名残を惜しんで眺めていらっしゃるだろう。お琴どもは、調子も変わらずお弾きになっていらっしゃるだろうよ。御息所も、和琴の上手だものなあ」

などと、思いを馳せて横におなりになった。

「どういうわけで、故君〔柏木〕は、ただ表向きの心遣いは、立派にもてな申し上げながら、とても深い様子がなかったのだろう」

と、それにつけても、とても不審に思われる。

「〔自分が柏木に〕見劣りするだろうことは、とても気の毒なことだろう。世間一般についても、評判が高く聞くことは、きっとそういうことがあるのだろうよ」

などと思うと、自分たち夫婦の仲が、少し不機嫌そうな思いやりもなく、睦まじくし始めた年月を数えると、しみじみと、〔雲居雁が〕こんなに強く出て驕るようになっていらっしゃるのも、もっともだとお思いになった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第37冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。