第37帖 横笛 / 第7場面
夢の柏木
あらすじ・人物・読み方
夕霧の夢に柏木の亡霊が現れ、横笛に寄せた歌を詠んで消えようとする。若君の泣き声で目覚めた夕霧は、雲居雁と若君を慰めながら笛の行く末に悩み、誦経をさせた末に、笛を持って六条院へ参る。
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現代語で読む
少し寝入っていらっしゃる夢に、あの衛門督〔柏木〕が、ただ生前そのままの袿姿で、そばに座って、この笛を取って見る。夢の中でも、亡くなった人が、迷惑なことに、この音色を尋ねて来た、と思うと、
笛竹に吹き寄せる風の音であるならば、遠い末の世まで長くその音色を伝えよう。思う方向が違っておりました」
と言うのを、尋ねようと思ううちに、若君が寝驚いて泣いていらっしゃるお声に、〔夕霧は〕目覚めなさった。
この君〔若君〕がひどく泣いていらっしゃって、しゃっくりなどなさるので、乳母も起きて騒ぎ、〔雲居雁の〕上も大殿油を近くに取り寄せさせなさって、耳挟みをして、さっと繕って、抱いていらっしゃった。〔雲居雁は〕とてもよく肥えた〔若君の〕、ふっくらと愛らしい胸のあたりで、〔御自分の〕胸を開けて、乳など含ませなさる。稚児もとても可愛らしくいらっしゃる君なので、白く愛らしいのに、お乳はとても涸れているのを、気を紛らわせて慰めていらっしゃる。
男君〔夕霧〕も近寄っていらっしゃって、「どうしたのか」などおっしゃる。あれこれ散らかしたりなどして、騒がしいので、夢のしみじみした思いも紛れてしまうだろう。
「〔若君は〕苦しそうに見えますね。今風のご様子で〔外に〕心惹かれていらっしゃって、夜深いお月見に、格子も上げられたので、いつもの物の怪が入って来たのでしょう」
などと、とても若く愛らしい顔をして、〔雲居雁が〕言いがかりをつけなさるので、〔夕霧は〕微笑んで、
「おかしな、物の怪の案内役だな。私が格子を上げなければ、道がなくて、本当に入って来られなかっただろう。多くの人の親におなりになるにつれて、思い至ることが深く、物をおっしゃるようになったものだなあ」
と言って、ちらりと見やりなさったまなざしが、とても恥ずかしそうなので、さすがに〔雲居雁は〕何もおっしゃらずに、
「出ていらっしゃいなさい。見苦しい」
と言って、明るい灯りの光を、さすがに恥ずかしがっていらっしゃる様子も憎らしくない。本当に、この君〔若君〕は具合が悪く、泣きむずがって夜を明かしなさった。
大将の君〔夕霧〕も、夢を思い出しなさると、
「この笛も厄介なものだなあ。人の心をとどめて〔人が〕大切に思っていた物が、行くべき人のところにもない。女〔落葉の宮〕のお伝えでは、甲斐がないということか。〔柏木は〕どう思ったのだろう。この世で、物の数とも思い入れなかったことも、あの臨終の締めくくりに、一つの思いの恨めしさも、あるいは愛しいと思う気持ちにまとわりつかれてこそ、長い夜の闇にも迷うことなのだろう。だからこそ、何ごとにも執着はとどめまいと思う世の中である」
など、思い続けて、愛宕〔の寺〕に誦経させなさる。また、あの心を寄せている寺にも〔誦経を〕させなさって、
「この笛を、わざわざ人がそのような由緒深い物として、引き出していらっしゃったのに、すぐに仏の道に向けようとするのも、尊いこととは言いながら、味気ないことだろう」
と思って、六条の院に参りなさった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第37冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。