第38帖 鈴虫 / 第4場面
秋の野作りと源氏の訪問
あらすじ・人物・読み方
秋、女三の宮の西の渡殿の前は野に作られ、閼伽の棚など優美な設えが整う。出家に仕える尼や女房は、心の定まった者だけが選ばれ、源氏の諌めで十余人ほどに限られる。源氏は夕暮れに渡って虫の音を聞くふりをして未練を訴えるが、宮はそれを厄介なことと受け止め、人里離れた住まいを願いながらも強くは言い出せないのだった。
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現代語で読む
秋頃、〔女三の宮は〕西の渡殿の前、中の塀の東の端を、すべて野にお作らせになった。閼伽の棚などを設けて、その方面におさせになった御設えなどは、たいそう優美である。
御弟子としてお仕え申し上げている尼たちや、御乳母、古参の人々は、そういうものとして、若い盛りの者も、心が定まり、そういう方面で世を終えるはずの者だけを選んで、〔尼に〕おさせになったのだった。
そういう勢いでは、我も我もと競い合ったけれど、大殿の君〔源氏〕がお聞きになって、「あってはならないことだ。心ならぬ人が少しでも混じれば、周りの人が苦しく、軽々しい評判が出てくるものだ」とお諌めになって、十余人ばかりが、容貌も格別でお仕えしている。
この野に〔源氏は〕虫を放たせなさって、風が少し涼しくなってゆく夕暮れに、〔宮のもとへ〕お渡りになりながら、虫の音をお聞きになる様子で、なお思いを離れられない様子を申し上げて〔宮を〕お悩ませなさるので、「いつものお気持ちは、あってはならないことでありましょう」と、〔宮は〕ひたすら厄介なこととお思い申し上げていらっしゃった。
人目には変わることなくお振る舞いなさっていたが、内心ではつらさをお知りになる様子が明らかで、すっかり変わってしまったお気持ちを、どうしてお見せ申し上げまいかというお気持ちで、多くは思い慣れなさった世を背くことなので、今は〔世を〕離れて心安らかでいるのに、「なお、このように」などと〔源氏が〕申し上げなさるのがつらくて、「人里離れた御住まいがあればなあ」とお思いになるけれど、およすけて、それほど強くも申し上げなさらない。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第38冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。