源氏物語 第38帖
鈴虫 すずむし
あらすじ
出家した女三の宮の念誦堂の供養に、朱雀院は蓮の台の歌を交わして来世の契りを願う。秋、野に放たれた虫の音を聞きに源氏が訪れ、宮は鈴虫の声をふり捨てがたいと歌い返す。十五夜の宴に冷泉院からの消息が届いて朱雀院は夜更けに参内し、戻ると中宮と語り合い、亡き六条御息所の罪と炎に思いを致す。
この帖の人物
場面 第1–5場面
第1場面念誦堂の供養夏、蓮の花の盛りに、女三の宮の御持仏の供養が営まれる。源氏の心遣いで念誦堂の道具が調えられ、紫の上が急いで仕立てた幡や花机の覆いなどが清らかに飾られる。朱雀院は女房たちに静かにするよう教え、宮と共に来世で蓮の花の中に隔てなく住みたいと願って涙する。第2場面蓮の台の贈答歌朱雀院は、蓮の葉を同じ台と約束したのに露のように分かれる今日が悲しいと、香染めの扇に歌を書きつける。女三の宮は、隔てなく蓮の宿を約束してもあなたの心は住まないのではないかと返歌する。院はほほ笑みながらも、しみじみと物思いに沈む様子である。第3場面供養の広がりと宮の御処分御念誦堂の供養は、紫の上が用意させた法服などもあって心のこもったものとなり、内裏や山の帝からも使いが届いて、内々のことだったのが急に広がってゆく。朱雀院は、女三の宮がよそに住み離れては朝夕の世話が疎かになり本意に背くと言い、この宮を細やかに造らせ、御封の物や宝物を三条の宮の倉に納めさせる。朝夕の世話や女房のことまで、すべて自分の扱いとして急がせたのだった。第4場面秋の野作りと源氏の訪問秋、女三の宮の西の渡殿の前は野に作られ、閼伽の棚など優美な設えが整う。出家に仕える尼や女房は、心の定まった者だけが選ばれ、源氏の諌めで十余人ほどに限られる。源氏は夕暮れに渡って虫の音を聞くふりをして未練を訴えるが、宮はそれを厄介なことと受け止め、人里離れた住まいを願いながらも強くは言い出せないのだった。第5場面十五夜の鈴虫の歌十五夜の夕暮れ、仏の御前で念誦する女三の宮のもとへ源氏が渡り、秋の虫の声について語り合う。宮が鈴虫の声に寄せて歌を口ずさむと、源氏は返歌を贈り、琴を弾いて聞かせる。
場面 第6–8場面
出典・底本
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第38冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。