第38帖 鈴虫 / 第7場面
冷泉院の消息と夜の参内
あらすじ・人物・読み方
鈴虫の宴の途中で冷泉院から秋の月の歌を添えた消息が届き、朱雀院は返歌を詠んで急に参内することにする。源氏・夕霧らも供をして月夜の忍び参りとなり、冷泉院は思いがけない訪問を驚き喜ぶ。
下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。
表示と音声の設定
現代語で読む
御土器が二巡ほど〔朱雀院へ〕参る頃に、冷泉院からお手紙が届いた。御前の管弦の遊びが急に中止になったのを残念がって、左大弁、式部大輔、また人々を率いて、しかるべき人々が皆参上したので、大将〔夕霧〕などは六条院にお仕えしている、と〔冷泉院が〕お聞きになったからであった。
雲の上〔宮中〕を遠く離れた住まいでも、忘れることのない秋の夜の月〔あなたへの思い〕です。〔私も〕同じように〔お目にかかりたいものです〕」と〔朱雀院へ〕申し上げなさると、
「何ほど窮屈な身のほどでもないのに、今はのんびりとお過ごしでいらっしゃるのに、〔私が〕お参りして親しくすることもめったにないのを、〔冷泉院が〕残念なこととお思い余って、お知らせくださったのは、恐れ多いことです」
と言って、急なことのようではあるけれど、〔朱雀院は〕お出かけになろうとする。
月の光は同じ空に見えながら、私の宿から眺める秋は〔昔と〕変わってしまった。
〔歌は〕格別なことはないようだが、ただ昔と今のご様子が思い続けられたそのままであるようだ。御使者に盃を賜って、〔御使への〕禄はこの上なく立派であった。
人々の御車を、序列の順に引き直し、御前の人々が立ち混じって、静かだった管弦の遊びも取り紛れて、〔朱雀院は〕お出発になった。院の御車に、親王〔源氏〕をお乗せ申し上げ、大将〔夕霧〕、左衛門督、藤宰相など、いらっしゃった方々は皆お供申し上げる。
直衣姿で、軽いお召し物ばかりなので、下襲だけを奉って加え、月がやや昇り上がり、更けてきた空が趣深いので、若い人々は、笛などをわざわざでなく吹かせなさったりなどして、〔これは〕忍びのお参りの様子である。
〔本来〕格式ばるべき折々は、窮屈なほど盛大な儀式を尽くして、互いにご覧になっていらっしゃったが、また、昔のただ人だった頃の様子に思いをお返しになって、今宵は軽々しい様子で、ふとこのようにお参りになったので、〔冷泉院は〕たいそう驚き、お待ち申し上げて喜んでいらっしゃる。
年を重ねて整っていらっしゃるお顔立ちは、ますます格別である。華やかな御全盛の世を、ご自身の心のままにお捨てになって、静かなご様子に、感慨は少なくない。
その夜の歌々は、漢詩も和歌も、趣が深く面白いものばかりであった。例によって、言い足りない端々は、まねて述べるのも傍らで聞くのが痛々しくて〔書かない〕。明け方に漢詩文などを講じて、早く人々は退出なさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第38冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。