ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第39帖 夕霧 / 第10場面

御息所の返歌と容体

あらすじ・人物・読み方

御息所は亡き柏木のことを思い沈み、夕霧の文への返事を娘に代わって自ら書く。返歌に一夜の宿借りを咎める思いを託すが、書き終えると容体が悪化し、人々は騒ぎ、宮は母のそばを離れない。

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現代語で読む

「亡き督の君〔柏木〕のご性質が思い通りでなかった時は、たいそうつらいと思いましたが、大方のおもてなしは、また並ぶ人もなかったので、こちら〔宮〕に頼もしい心地がして慰められたことさえ、世間的には心が満たされませんでしたのに。ああ、ひどいことです。大殿〔源氏〕のお邸で〔夕霧が〕思いおっしゃるだろうこと〔が心配です〕」と〔御息所は〕深く思い沈んでいらっしゃる。

「やはり、〔夕霧が〕何とおっしゃるか、様子だけでも見よう」と、気分が掻き乱れて苦しくなるような目を押し絞って、拙い鳥の足跡のように〔返事を〕お書きになる。

「頼りなげになっております、お見舞いにいらした折に、そそのかし申し上げますが、たいそう晴れ晴れしくない様子でいらっしゃるようなので、拝見しかねております。萎れかけた女郎花の咲く野辺を、どこだと思って、一夜だけの宿を借りたのでしょうか。と、ただ書きさして、押しねじって〔文を〕お出しになって、横になりなさったまま、たいそうひどく苦しがっていらっしゃる。御物の怪が弱ったのだろうかと、人々は言い騒ぐ。

いつものように、験のある限りの者が、たいそう騒がしく祈り叫ぶ。宮を、「やはり、お移りください」と、人々は申し上げるけれど、ご自身のつらさのままに、〔母に〕後れ申し上げるまいとお思いなので、ぴったりと添っていらっしゃった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第39冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。