ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

源氏物語 第39帖

夕霧 ゆうぎり

あらすじ

柏木の死後、夕霧はその未亡人である落葉の宮(女二の宮)への思いを募らせ、表向きは亡き友の遺族への情けとして一条の宮へ通う。病に伏す母の御息所を見舞って小野の山里を訪れた夕霧は、霧の夜に宮の座へ忍び入り、長年の思いを訴えてしまう。秘密の漏れたことを嘆いた御息所はやがて亡くなり、宮は世を厭うて喪に籠もるが、夕霧はなおも文を重ね、形見の筥を残す宮を一条の宮へ移して通い始める。三条殿の雲居雁は夫の心変わりに嫉妬し、ついに実家へ帰ってしまう。

この帖の人物

場面 第1–5場面

第1場面一条の宮への思い夕霧はまじめな大将の評判を保ちながら、一条の宮への思いを募らせ、表向きは柏木への旧情として丁寧に見舞いを続ける。御息所もその心遣いに慰められるが、宮からの趣ある返事に夕霧の文はますます頻繁になる。雲居雁が様子を察したため、夕霧はなかなか参ることができない。第2場面小野の山里を訪ねる八月、夕霧は律師への相談と御息所の見舞いを口実に小野の山里を訪れる。宮の御簾の前で挨拶を交わし、直接言葉を交わせないもどかしさを訴える。夕暮れの山里の趣に心を動かされ、帰る気にもなれない。第3場面夕霧の歌と宿借りの策小野の山里で、女二の宮は夕霧が苦しげだというので人々がそちらへ集まり、人少なに物思いに沈んでいる。夕霧は霧にかこつけて歌を聞こえさせ、宮の返歌に慰められつつも帰りかね、律師に用があると偽ってこの辺りに泊まる策をめぐらす。道がたどたどしいので宿を借りるとそっけなく言い、御消息を伝える人の影について宮の座へ入り込んでしまう。第4場面宮の座へ忍び入る夕霧は霧に閉ざされた夕暮れの暗さの中で宮の座へ忍び入り、障子の外へ退こうとする宮を引き留める。宮は震えながら恨み言を言うが、夕霧は穏やかに取り鎮め、長年の思いと、このまま朽ちるような悲しみだけは聞いてほしいと訴え続ける。更けゆく夜の趣の中、宮は何と答えればよいか思い巡らし、自分の罪を思い知る言葉をほのかに漏らして泣く。第5場面夜明けの贈答小野の山里で、落葉の宮がほのかに漏らした歌を夕霧が濡衣の言葉で受け、夜明けまで贈答が続く。宮は世間の噂と御息所の心を案じて夕霧を帰らせようとし、夕霧は霧に紛れて出立しながらも思いを断ち切れない。

場面 第6–10場面

第6場面六条院と宮の文夜明けに六条院の東の御殿へ帰った夕霧。一方、小野の宮は届いた文を恥ずかしさからすぐには見られず、御息所に知られることを案じる。女房たちに開けられた文には、心深い言葉と魂を詠んだ歌があった。第7場面律師の漏らした秘密病に伏す御息所のもとで修法を行う律師が、今朝西の妻戸から出た夕霧を見た法師たちの噂を漏らし、夕霧が夜泊まりしたのではないかと語る。御息所は否定しながらも心を乱し、小少将の君を呼んで事情を聞き、軽々しい噂が立つことを深く嘆く。第8場面少将の取りなし御息所は病の合間に女二の宮を呼ぶよう言い、少将が伝えるが、宮は身支度をしても動けず、噂を思って伏してしまう。少将は御息所への申し上げ方を取りなして宮を慰めようとし、夕方になって宮はようやく御息所のもとへ渡る。第9場面母娘の対面と夕霧の文病に苦しみながらも宮を並々でなくかしずく御息所は、もう対面も叶わないかもしれないと泣く。夕霧からの文が届き、御息所は少将から文を取り寄せて目を通すが、夕霧の歌をはじめ文を最後まで読み終えることができない。第10場面御息所の返歌と容体御息所は亡き柏木のことを思い沈み、夕霧の文への返事を娘に代わって自ら書く。返歌に一夜の宿借りを咎める思いを託すが、書き終えると容体が悪化し、人々は騒ぎ、宮は母のそばを離れない。

場面 第11–15場面

第11場面三条殿の勘ぐり三条殿にいた夕霧は、今夜小野へ行けばいかにも行き慣れた様子と噂されると悩み、思いを重ねる。雲居雁は宮からの返事を夕霧の背後から奪い取り、夕霧が六条院の東の上の文だと偽っても疑いを晴らさず、隠された文を夜通し探し続ける。第12場面隠した文の発見夕霧は昨夜の文の内容が分からぬまま、宮が自分をどう思ったかと推し量って思い乱れる。昼に雲居雁へ文のことを尋ねてもはぐらかされ、夕方になって御座の下に挟まれた文をようやく見つけ、宮の苦しい心情を知って心を痛め、返事を申し上げる。第13場面釈明の文と母の諭し雲居雁に見咎められた夕霧は、仮寝の枕は結ばなかったと歌で釈明し、宮へは使いの大夫を立てて言い訳を伝える。御息所は宮を諭し、軽はずみな振る舞いが浮名を招くことを涙ながらに戒めるが、宮は答える言葉もなく泣くばかりで、御息所の容体は急に悪化する。第14場面御息所の死律師の祈りも虚しく御息所は息絶え、宮は後を追うように添い臥すが人々に引き離される。所々から弔問が届き、朱雀院の慰めの文に宮はようやく髪を上げ、目も見えないまま返事を申し上げる。第15場面葬送の手配と小野の喪御息所の遺骸はその日のうちに納められ、甥の大和守が葬送の一切を取り扱う。夕霧は人目には日並みの悪さを理由に、小野へ弔問に訪れ、臥せっている宮の様子を少将の君らから聞いて帰る。その後も宮は小野に籠もり、夕霧の心深い文にも返事をせず、夕霧は恨めしく思いながら母を失った悲しみを思い続ける。

場面 第16–20場面

第16場面雲居雁の文と返歌雲居雁は夕霧と御息所との仲の様子がどういうことか分からず、若君に持たせた文に、生きている人を恋しいとも亡くなった人を悲しいとも言いきれぬ歌を書き送る。夕霧はほほ笑んで、何事もないように返歌を書き送るが、雲居雁はその歌のあはれはさしおいて、夕霧が自分を隔てていることを並々でなく嘆く。第17場面九月の小野、鹿の歌夕霧は御忌が過ぎてからと心を静めようとするが忍びきれず、また小野へ渡る。九月の山里のもの悲しい景色の中、少将の君を近くに呼んで御息所の最期の様子を聞き、二人で泣く。鹿の声に寄せて夕霧が歌を詠むと少将の君が返歌するが、宮からのお返事はすげなく、夕霧は嘆きながら帰る。第18場面一条の宮の跡と手習いの歌夕霧は十三日の月に一条の宮の荒れた跡を訪ね、柏木を偲んで独り歌を詠む。三条殿では雲居雁が夕霧の心変わりを嘆く中、夕霧は宮へ文を送り、返事に紛れ込んだ宮の手習いの歌に心を乱される。第19場面六条院の憂慮六条院の源氏は夕霧の振る舞いを聞き、宮と雲居雁の双方への気の毒さを思いながらも口出しを控える。紫の上との語らいを経て、参上した夕霧とは御息所の法事や宮の様子について言葉少なに交わし、諌めることをやめる。第20場面法事と一条移転の決意夕霧は御息所の法事を万事取り持ち、六条院からも誦経の援助がある。宮が出家を望むことが朱雀院に伝わり、院は後見のない身の浮名を案じて思いとどまるようたびたび諭す。夕霧は宮の許しは難しいと見て、一条への移転の日を定め、大和守に邸の整備を急がせる。

場面 第21–25場面

第21場面一条への移転と形見の筥移転当日、夕霧が自ら迎えに来るが宮は移転を拒む。大和守の強い説得にも宮は髪を切る思いを捨てきれず歌を詠むが、人々に鋏を隠され本意を遂げられない。やむなく泣く泣く車に乗った宮は、形見の螺鈿の筥を前に歌を詠む。第22場面一条の宮の夜一条の宮へ移った落葉の宮のもとへ夕霧が訪れ、少将の君をいみじく責めて宮への取りなしを迫るが、宮は塗籠に閉じこもって会おうとしない。夕霧は山鳥のようにひとり思い明かし、明け方、鎖された岩門に寄せた歌を残して泣く泣く帰る。第23場面六条院での弁明六条院に帰った夕霧は、紫の上から一条の宮を移したことを問われ、故御息所の遺言による後見だと弁明し、宮が出家を望んでいることも明かす。紫の上と和やかに語らったのち源氏の前に参ると、源氏は我が子ながら、その若々しく盛りの姿に見とれる。第24場面三条殿の夫婦の諍い三条殿へ移った夕霧は、帳に臥す雲居雁と鬼に例えた言い合いを交わし、慰めるうちに和やかさを取り戻すが、心は落葉の宮への思いに上の空である。夕霧が香を焚きしめて出かける姿を見送った雲居雁は、単衣の袖を引き寄せて独り歌を詠み、夕霧は松島の歌で返して急ぎ出ていく。第25場面一条での逗留一条の宮は夕霧との対面を拒み続けるが、少将の君の取りなしで夕霧は塗籠に入り、宮と夜を明かす。翌朝、宮は衰えた自分の姿を見られることを恥じ、夕霧も雲居雁への思いに苦しむ。一条では大和守の手配で滞在のしつらえが整えられる。

場面 第26–28場面

出典・底本

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第39冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。