第39帖 夕霧 / 第12場面
隠した文の発見
あらすじ・人物・読み方
夕霧は昨夜の文の内容が分からぬまま、宮が自分をどう思ったかと推し量って思い乱れる。昼に雲居雁へ文のことを尋ねてもはぐらかされ、夕方になって御座の下に挟まれた文をようやく見つけ、宮の苦しい心情を知って心を痛め、返事を申し上げる。
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現代語で読む
男〔夕霧〕は、ほかのこともお覚えにならず、あちら〔宮〕へ早く申し上げようとお思いになるが、昨夜のお手紙の様子も、確かには見ないでしまったので、「見ていない様子でも、〔宮は文を〕散らしてしまったと推し量りなさるだろう」などと、思い乱れていらっしゃる。
誰も彼も御膳を差し上げるなどして、のどかになった昼ごろ、〔夕霧は〕思い煩って、
「昨夜のお手紙には、何事かあったのですか。あやしいことに見せてくださらないで。今日もお見舞い申し上げるべきです。〔宮が〕悩ましそうで、六条にも参上できないでしょうから、手紙だけは差し上げましょう。何事があったのでしょう」
とおっしゃるのが、たいそうさりげないので、「手紙は、おこがましく取り上げてしまった」と興ざめして、そのことには触れなさらず、
「一夜の深山風に、お間違いになって悩ましいことのようだと、おかしなように言い訳して申し上げてくださいな」
と申し上げなさる。
「まあ、この僻事を、いつもおっしゃらないでください。何のおかしいことがあるのです。世の人に比べなさることこそ、かえって恥ずかしいことです。この女房たちも、一方ではあやしいまじめな様子を、こうおっしゃると思って、微笑むでしょうに」
と、冗談にして言いなして、
「その手紙は。どこですか」
とおっしゃるけれど、すぐには引き出しなさらないうちに、なお物語などを申し上げて、しばらく臥していらっしゃるうちに、暮れてしまった。
ひぐらしの声に驚いて、「山の蔭はどれほど霧がふさいでいるだろう。あきれたこと。今日このお返事だけでも」と、気の毒に思って、ただ知らない顔で硯を押しすって、「どうにかして〔文を〕取り戻したい」と、物思いに沈んでいらっしゃる。
御座の奥の少し上がった所を、試しに引き上げなさると、「ここに挟んでいらっしゃったのだ」と、嬉しくもおこがましくも思われるので、微笑んでご覧になると、このように心苦しいことがあった。胸がつぶれて、「一夜のことを、心あって聞いていらっしゃった」とお思いになると、気の毒で心苦しい。
「昨夜だけでも、どれほど思いながら夜を明かしなさったでしょう。今日も、今まで手紙だけでも」
と、言いようもなく思われる。〔宮は〕たいそう苦しそうに、言う甲斐もなく、書き紛らわしていらっしゃる様子で、
「並々でなく思い余って、こうお書きになったのだろうか。つれなくして今夜も明けてしまうだろう」
と、言うべき方法もないので、女君〔宮〕は、とてもつらく心憂い。
「むやみに、こう、むなしく隠して。まあ、私の仕付けです」と、さまざまに身もつらく、すべて泣いてしまいそうな心地がなさる。
そのまま出かけようとなさるのを、
「気安く対面もないだろうことから、〔雲居雁も〕人もこうおっしゃる、どうなるのだろう。坎日でもあったのを、もし万一お許しくださるなら、悪くはないでしょう。なお良いことをこそ」
と、きちんとした心でお思いになって、まず、このお返事を申し上げなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第39冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。