ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第39帖 夕霧 / 第13場面

釈明の文と母の諭し

あらすじ・人物・読み方

雲居雁に見咎められた夕霧は、仮寝の枕は結ばなかったと歌で釈明し、宮へは使いの大夫を立てて言い訳を伝える。御息所は宮を諭し、軽はずみな振る舞いが浮名を招くことを涙ながらに戒めるが、宮は答える言葉もなく泣くばかりで、御息所の容体は急に悪化する。

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現代語で読む

「〔夕霧からの〕たいそう珍しいお手紙を、あれこれ嬉しく拝見していたのに、このお咎め〔の文〕とは。〔雲居雁は〕どのようにお聞きになったことでしょうか。秋の野の草の茂みは分け入りましたが、仮寝の枕を結ぶようなことは決してありませんでした釈明申し上げるのも筋違いではありますが、昨夜の罪は、ひたすら〔部屋に〕籠もっていたことでしょうか」

と〔文に〕ある。〔夕霧は〕宮へは、たいそう多く〔言い訳を〕申し上げなさって、御厩舎の足の速い御馬に〔荷を〕移し置いて、一夜〔仕えた〕の大夫を〔使いとして〕差し上げなさる。

「昨夜から、六条の院に伺候していて、ただ今退出してきましたと言え」と言って、〔大夫に〕言うべき次第を、ささやいて教えなさる。

あちら〔小野〕では、昨夜もつれなく見えていらっしゃった〔宮の〕ご様子を、〔御息所は〕忍びきれず、後々の評判をも包み隠しきれず恨み申し上げていらっしゃったのに、そのお返事さえ見えず、今日が暮れ果ててしまったのを、どれほどのお心〔の冷たさ〕かと、〔期待から〕離れてあきれ果て、心も砕けて、よくなっていたご気分が、またたいそう悪くお悩みになる。

むしろ当の〔宮〕ご自身のお心の内は、この節〔夕霧とのこと〕を特に憂いともお思いでなく、驚くべきことでもないので、ただ思いもよらぬ人に、気を許していた様子を見られてしまったことだけが残念で、〔夕霧を〕たいして思い詰めてもいらっしゃらないのに、このようにひどく〔母が〕気をもんでいらっしゃるのを、あきれるほど恥ずかしく、釈明申し上げるすべもなくて、普段よりも人目を恥じておられる様子が見えるのを、「たいそう心苦しく、〔宮は〕物思いばかりを重ねるはずだった」と〔母が〕拝見するにつけても、胸がきゅっと塞がって悲しいので、

「今さら面倒なことを申し上げまいと思いますが、やはり、ご宿世とは言いながら、思いがけず心幼くて、人の非難を負いなさるようなことを〔なさるとは〕。取り返せることではありませんが、今からは、やはりそのような〔慎重な〕心構えをなさいませ。人数にも入らぬ身ながらも、万事にお育て申し上げてきた〔あなた〕が、今は何事もお分かりになり、世の中のあれこれの様子も、お考えが至るほどに、〔成長した姿を〕拝見し置いたことと〔思っていたのに〕、そちら方面は安心と拝見していたのに、やはりとても幼くて、強いご意志の備えがなかったことと、思い乱れておりますと、今しばらくの命も留めたいほどです。普通の人でさえ、少しよくなった女を、男二人と見る例は、心憂く軽はずみな行為であるのに、ましてこのようなご身分では、それほど並々でなく、人が近づき申し上げるはずもないのに、思いのほかに心にも留めないご様子だと、長年拝見して悩んでいましたが、そうなるべきご宿世なのでしょう。院〔朱雀院〕をはじめとして、お心が傾き、この父大臣〔式部卿宮〕もお許しになるはずのご様子があったのに、私一人だけが意地を張っても、どうだろうかと思い寄せてきたことでしたので、末の世まで恨めしいご様子を、私の過ちでもないのに、空を仰いで嘆きながら拝見し過ごすのを、たいそうこのように人のため自分のためにも、万事に聞き苦しくなるはずのことが起こり加わるでしょうが、それでも、よそのお名〔浮名〕は知らない顔で、世間並みのご様子でさえあれば、自然と時が経つにつけても、慰むこともあるかと、思いなしておりましたのに、〔夕霧は〕この上なく情けのない方のお心でもございましたことよ」

と、つぶつぶと〔言って〕泣いていらっしゃる。

〔母が〕たいそう無理におし込めておっしゃるのに、抗って晴らす言葉もなくて、ただ泣いてばかりいらっしゃる様子は、おっとりとして可愛らしい。〔母は宮を〕じっと見つめながら、「ああ、何事が、人にお劣りでしょうか。どのようなご宿世で、安らかでなく、物を深くお思いになるべき因縁が深かったのでしょう」などとおっしゃるうちに、〔御息所は〕ひどく苦しくなっていらっしゃる。物の怪なども、このような弱り目につけ入るものなので、にわかに消え入るようになって、ただ冷えに冷え入っていらっしゃる。律師も騒ぎ立っていらっしゃって、願などを立てて大声で祈っていらっしゃる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第39冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。