第39帖 夕霧 / 第14場面
御息所の死
あらすじ・人物・読み方
律師の祈りも虚しく御息所は息絶え、宮は後を追うように添い臥すが人々に引き離される。所々から弔問が届き、朱雀院の慰めの文に宮はようやく髪を上げ、目も見えないまま返事を申し上げる。
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現代語で読む
深い誓いによって、今は命を限っていた山籠もりを、このように並々でなく〔律師が〕出て立って、〔修法の〕壇を壊して帰り入ることが、面目なく、仏も辛くお思いになるはずのことを、〔律師は〕心を起こして祈り申し上げなさる。宮が泣き惑っていらっしゃることは、たいそうもっともなことであるよ。
このように騒ぐうちに、大将殿〔夕霧〕からお手紙を取り入れたのを、〔御息所は〕ほのかにお聞きになって、今夜も〔夕霧は〕いらっしゃらないだろうようだ、と聞き取っていらっしゃる。
「心憂いことです。世間の例にも引き合いに出されなさるはずのようです。なぜ私まであのような言葉を残してしまったのでしょう」と、あれこれ思い出しなさるうちに、そのまま息絶えてしまわれた。あっけなくひどいと言えば言い足りないほどだ。昔から、物の怪には時々患っていらっしゃる。最期かと見える折々もあるので、「例のように〔物の怪が〕取り入ったのだろう」と言って、加持に参って騒ぐけれど、臨終の様子は明らかであった。
宮は、〔母の〕後を追おうと思い詰めて、ぴったり添って臥していらっしゃった。人々が参って、「今は、言っても甲斐がありません。たいそうこのようにお思いでも、限りある〔死出の〕道は、帰りいらっしゃるはずのものでもありません。〔母を〕慕い申し上げなさっても、どうしてお心に適うでしょうか」と、さらにもっともな道理を申し上げて、「たいそう忌まわしいことです。亡くなった方〔母〕のためにも、罪深い行為です。今はお離れください」と、引き動かし申し上げるけれど、〔宮は〕すくんだようで、何もお分かりにならない。
修法の壇を壊して、ほろほろと〔人々が〕出て行くにつけ、そうなるべき最期〔の場〕には、一方だけでも立ち留まれ、今は最期の様子が、たいそう悲しく心細い。
所々からのお弔問が、いつの間にか〔届く〕と見える。大将殿〔夕霧〕も、この上なく聞いて驚いていらっしゃって、まず〔弔問を〕申し上げていらっしゃった。六条の院からも、致仕の大殿からも、すべてたいそう頻繁に〔弔問を〕申し上げなさる。山の帝〔朱雀院〕もお聞きになって、たいそうしみじみとお手紙をお書きになっていらっしゃった。宮は、このお手紙に、御髪〔頭〕をお上げになる。
「日頃重くお悩みと聞き続けてきましたが、例によって重い〔病〕とばかり聞いてきた慣れで、油断しておりました。甲斐ないことはそれとして、〔宮が〕思い嘆いていらっしゃるだろう様子を推し量るのが、しみじみと心苦しいことです。世間一般の道理としてお思い慰めください」と〔文に〕ある。〔宮は〕目も見えていらっしゃらないけれど、お返事を申し上げなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第39冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。