第39帖 夕霧 / 第16場面
雲居雁の文と返歌
あらすじ・人物・読み方
雲居雁は夕霧と御息所との仲の様子がどういうことか分からず、若君に持たせた文に、生きている人を恋しいとも亡くなった人を悲しいとも言いきれぬ歌を書き送る。夕霧はほほ笑んで、何事もないように返歌を書き送るが、雲居雁はその歌のあはれはさしおいて、夕霧が自分を隔てていることを並々でなく嘆く。
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現代語で読む
女君〔雲居雁〕は、やはりこの〔夕霧と宮との〕御仲の様子を、「どういうことだったのだろう。御息所とこそ、文通までして、細やかに〔夕霧は〕なさっているようだったのに」
などと理解できずに、夕暮れの空を眺め入りながら臥していらっしゃるところに、若君に〔文を〕持たせて〔夕霧へ〕差し上げなさった。はかない紙の端に、このしみじみとした思いをどう知って慰めようか。生きている人を恋しいとも、亡くなった人を悲しいとも〔言いきれない〕〔どちらなのか〕はっきりしないのがつらいことです」と〔文に〕あるので、〔夕霧は〕ほほ笑んで、
「以前にも、このように思い寄っておっしゃるのは、〔あなたには〕似合わないことだ。亡くなった人〔御息所〕にかこつけたものだろうか」と〔夕霧は〕お思いになる。〔夕霧は〕いっそう何事もないように、
どちらと分けて眺めようか。消え返る露さえも草葉の上とは見えない〔はかない〕世なのに〔人の死は〕おおかた悲しいものです」と〔夕霧は〕お書きになった。「やはり、このように〔私を〕隔てなさること」と、〔雲居雁は〕露の歌のしみじみした趣はさしおいて、並々でなく嘆き続けていらっしゃる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第39冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。