ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第39帖 夕霧 / 第26場面

雲居雁の里帰り

あらすじ・人物・読み方

夕霧の心変わりを疑う雲居雁は、方違えにかこつけて大殿へ里帰りし、子供たちを連れて戻らない。夕霧が自ら迎えに赴いても雲居雁は恨み言を述べ、寝殿へは渡らず、その夜は一人で寝る。明け方、夕霧は姫君を連れて行こうとして思いとどまるよう諭す。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

このように無理にも見慣れた顔を作りなさるうちに、三条殿では、

「〔愛情も〕限りがあるらしいと、それほどでもあるまいと、一方では頼みにしていたが、まめな人の心変わりは名残なくというのは、本当だった」

と、世を試した心地がして、「どうにかしてこの侮った様子を見まい」とお思いになったので、大殿へ、方違えをしようとして、お渡りになったのを、女御が里にいらっしゃる時などに、対面なさって、少し物思いが晴れる所と思われて、いつものようにも急いでお渡りにならない。

大将殿〔夕霧〕もお聞きになって、

「だからだよ。たいそう急に物事をなさるご性質だ。この大臣〔頭中将〕もまた、大人らしく落ち着いたところが、さすがになく、たいそう張り切って華やいでいらっしゃる人々で、目覚ましい、見るまい、聞くまいなど、ひねくれたことどもをし出なさるに違いない」

と、驚かれて、三条殿にお渡りになると、君たちも、一方は留まっていらっしゃるので、姫君たち、そしてたいそう幼い子とを連れて〔雲居雁は〕いらっしゃったのだが、〔子供たちが夕霧を〕見つけて喜び戯れ、あるいは上〔母〕を恋い申し上げて、嘆き泣きなさるのを、心苦しいとお思いになる。

お手紙をたびたび差し上げて、お迎えに差し上げなさるけれど、ご返事さえない。このように頑なで軽々しい世の中だなと、嫌にお思いになるけれど、大臣が見聞きなさるところもあるので、暮らしてから、ご自身で参られなさった。

寝殿にいらっしゃるということで、いつもお渡りになる方は、御達だけが控えている。若君たちが、乳母に添っていらっしゃった。

「今さら若々しいお交わりですね。このような人を、あちこちに落とし置きなさって。どうして寝殿のお交わりは〔ないのですか〕。ふさわしくないご心の筋とは、長年見知っていたけれど、そうなるべき運命か、昔から心に離れがたく思い申し上げて、今はこのように、くだくだしい人々がそれぞれ哀れなのを、互いに見捨てるべきではないだろうと、頼み申し上げていました。はかない一節のことで、このようにもてななさるべきですか」

と、たいそう侮り恨み申し上げなさるので、

「何事も、今はと見飽きなさってしまった身であるので、今また、直るはずもないのに、何だと言って〔弁解しましょう〕。怪しい人々は、お見捨てでなければ、嬉しいでしょうに」

と申し上げなさった。

「穏やかなお返事ですね。言っていけば、誰の名が惜しいというのか」

と言って、無理にお渡りになるでもなく、その夜は一人でお休みになった。

「奇妙に宙ぶらりんな頃だな」と思いながら、君たちを前に寝かせなさって、あちら〔一条〕でまた、どのように思い乱れていらっしゃるだろう様子を、思いやり申し上げ、心安らかでない心遣いであるので、「どんな人が、このようなことをおかしく思うだろう」などと、懲りてしまいそうにお思いになる。

明けると、

「人が見聞きするのも若々しいのを、限りとおっしゃり尽くすなら、それでは試してみましょう。あちらにいる人々も、可愛げに恋い申し上げているらしいのを、選び残していらっしゃる、理由があるだろうとは見ながら、思い捨てがたいのを、ともかくももてなしましょう」

と、脅し申し上げなさると、すがすがしいご心で、この君たちまでも、知らない所に連れてお渡りになるのではないかと、危うい。姫君を、

「さあ、くださいな。拝見しに、こうして参ることもきまり悪いので、常にも参りはしません。あちらでも人々が可愛がるのを、同じ所でだけでも拝見しましょう」

と申し上げなさる。まだたいそう幼く、可愛らしくていらっしゃるのを、たいそういじらしく拝見なさって、

「母君のご教えにも叶いなさいますな。たいそう心憂く、思い取る方角のない心があるのは、たいそう悪いことです」

と、言い聞かせ申し上げなさる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第39冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。