ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第39帖 夕霧 / 第3場面

夕霧の歌と宿借りの策

あらすじ・人物・読み方

小野の山里で、女二の宮は夕霧が苦しげだというので人々がそちらへ集まり、人少なに物思いに沈んでいる。夕霧は霧にかこつけて歌を聞こえさせ、宮の返歌に慰められつつも帰りかね、律師に用があると偽ってこの辺りに泊まる策をめぐらす。道がたどたどしいので宿を借りるとそっけなく言い、御消息を伝える人の影について宮の座へ入り込んでしまう。

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現代語で読む

〔夕霧が〕たいそう苦しそうになさっているということで、人々もそちらに集まり、大方も、このような旅の宿に大勢は参っていなかったので、ますます人少なで、宮は物思いに耽っておられた。静かな様子で、「〔心に〕思うことも打ち明けるべき折だろうか」と〔夕霧が〕考えておられたところ、霧がちょうどこの軒の下まで立ちこめてくると、

「退出しようとする方角も見えなくなっていくのは、どうしたらよいでしょう」と言って、山里のしみじみとした趣を添える夕霧のために、立ち出ようとする空もないような心地がしてと〔夕霧が宮に〕申し上げると、

山人の籬を込めて立つ霧も、心が空であるような人は留めはしない〔夕霧は〕ほのかに聞こえる〔宮の〕御気配に慰められながら、ほんとうに帰り道も忘れ果ててしまった。

「宙ぶらりんなことだなあ。家路は見えず、霧の籬は、立ち止まることもできないように〔宮が私を〕お帰しになる。不人情な人は、このようなことこそ〔するものだ〕」

などと言ってためらいながら、忍びきれない恋の筋もほのめかし申し上げると、〔宮は〕長年まったく見知りでないわけではないのに、知らない顔ばかりしておられたので、こうして言葉に出して恨み申し上げるのを煩わしく思って、ますます御返事もないので、〔夕霧は〕ひどく嘆きながら、心の中で、「また、このような折があるだろうか」と、思い巡らしておられた。

「情けなく軽薄な者とお思いになられても、どうしようもない。〔長年〕思い続けてきた様子だけでもお知らせ申し上げよう」

と思って、人をお呼びになると、御司の将監として冠位を得た、親しい人が参上した。そっと呼び寄せて、

「この律師に必ず言わなければならないことがあるのを〔伝えてほしい〕。護身法などで暇がなさそうだが、ただ今は休んでいるだろう。今夜この辺りに泊まって、初夜の時が終わる頃に、あの〔律師の〕いる方へ行こう。〔供の〕あれこれの者は、〔ここに〕控えさせよ。随身などの男たちは、栗栖野の荘の近くであろう〔所で〕、秣などを取って〔馬を〕飼わせて、ここでは大勢で声を立てるな。このような旅寝は、軽々しいことのように人も取りなすだろう」

とおっしゃる。何かお考えがあるのだろうと心得て、承って立ち去った。

さて、「道がたいそうたどたどしいので、この辺りで宿をお借りします。〔どうせなら〕同じことなら、この御簾の下に〔いることを〕お許しいただければと思います。阿闍梨が下山するまでの間だけでも」

などと、そっけなくおっしゃる。普段は、このように長居して、ふざけた様子もお見せにならないのに、「困ったことだ」と、宮はお思いになるが、わざとらしくなって、軽々しくあちらへ這い渡りなさるのも、〔周りの〕人も体裁の悪い心地がして、ただ音も立てずにいらっしゃると、〔夕霧は〕あれこれと言い寄って、御消息を申し伝えようと膝行して入る人の影について、〔部屋に〕入ってしまわれた。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第39冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。