ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第39帖 夕霧 / 第4場面

宮の座へ忍び入る

あらすじ・人物・読み方

夕霧は霧に閉ざされた夕暮れの暗さの中で宮の座へ忍び入り、障子の外へ退こうとする宮を引き留める。宮は震えながら恨み言を言うが、夕霧は穏やかに取り鎮め、長年の思いと、このまま朽ちるような悲しみだけは聞いてほしいと訴え続ける。更けゆく夜の趣の中、宮は何と答えればよいか思い巡らし、自分の罪を思い知る言葉をほのかに漏らして泣く。

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現代語で読む

まだ夕暮れで、霧に閉ざされて、内側は暗くなってしまった時分である。あきれて振り返ると、宮はたいそう気味悪くお思いになって、北の御障子の外へ膝行して出ようとなさるのを、〔夕霧は〕とても上手くたどって、引き留め申し上げた。

御身は〔奥へ〕入り果ててしまわれたが、御衣装の裾が残って、障子は、あちらから閉める手段がなかったので、〔夕霧が〕引き立てて閉めて、〔宮は〕水のように震えていらっしゃる。

人々もあきれて、どうすべきこととも思いつけない。こちら側からこそ閉める錠などもあるが、たいそう無理なことで、荒々しく引き開けることができるような方でもいらっしゃらないので、「たいそう驚きあきれたことです。思いも寄らなかった〔あなたの〕お心のほどですこと」と、泣きそうなほどにおっしゃるが、

「これほど〔側に〕控えていることが、人より格別に疎ましく、目障りにお思われなさることがありましょうか。数ならぬ身でも、〔声に〕お耳馴れになった年月も重なっているでしょう」と言って、たいそう穏やかに様子よく取り鎮めて、思うことをお聞かせ申し上げなさる。

〔宮は〕聞き入れなさるはずもなく、悔しく、これほどまでとはとお思いのことばかりで、やり場がなく、おっしゃろうとする言葉も定かにお思いになれない。

「たいそう情けなく、若々しい御様子ですね。人知れず心に余るほどの好色な罪ばかりがあるでしょうが、これより馴れ馴れし過ぎることは、決してお心をお許しにならなければ御覧にはならないでしょう。どれほど、千々に砕けるような思いに堪えられないことか。それでも自然と御覧になってお分かりになる節もあるでしょうに、無理に曖昧に、疎々しくあしらわれなさるようなので、申し上げる手段のなさに、どうしたらよいでしょう、具合悪く憎いとお思われても、このまま朽ちてしまうような悲しみを、はっきりとお聞かせ申し上げようというだけなのです。言いようのない〔あなたの〕御様子の辛さのなかにも、たいそう畏れ多いので」

と言って、ひたすら情け深く、用心なさっていた。

〔宮が〕障子を押さえていらっしゃるのは、たいそう心細い守りだが、〔夕霧も〕引き開けもしない。

「これほどの隔てをと、無理にお思いになることこそしみじみと悲しい」と、少し笑って、〔宮は〕困ったことに心のままになる様子でもない。〔宮の〕御様子が、慕わしく上品で優美でいらっしゃることが、そうはいっても格別に見える。長年物思いをなさってきたせいか、痩せ痩せとか弱い心地がして、くつろいでいらっしゃるままの御袖の辺りもしなやかに、身近に染みた香りなど、すべてが集まって愛らしく、柔らかな心地がなさっていた。

風がたいそう心細く、更けゆく夜の様子、虫の音も、鹿の鳴く音も、滝の音も、一つに乱れて、艶っぽい時分だが、普通の軽薄な人でさえ、目が覚めてしまうような空の様子を、格子もそのままに、入り方の月が山の端に近づくほど、留めがたく、しみじみと趣がある。

「やはり、こうしてお分かりにならない御様子こそ、かえってお心の浅さが知られます。こう世慣れないほど純真で無防備なところも、類がないと思われますが、何事にも通じやすいほどの人こそ、このような〔様子〕を愚か者などと笑って、冷淡な心も使うそうです。あまりに格別なくおとしめなさっているので、〔私の心は〕静め果てることができない心地がします。世の中をまったくお分かりでないわけでもないでしょうに」

と、あらゆることで責めるように申し上げられて、〔宮は〕何と言えばよいかと、つらく思い巡らす。

世を知っている方の気安さのように、折々〔夕霧が〕ほのめかすのも、腹立たしく、「本当に、類のない身の悲しさだ」と、お思い続けになるにつれて、死んでしまいそうにお思いになって、

「辛い自分自身の罪を思い知るといっても、たいそうこのように驚きあきれることを、どのように思いなせばよいのでしょう」と、たいそうかすかに、悲しげに泣いていらっしゃって、

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第39冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。