第39帖 夕霧 / 第6場面
六条院と宮の文
あらすじ・人物・読み方
夜明けに六条院の東の御殿へ帰った夕霧。一方、小野の宮は届いた文を恥ずかしさからすぐには見られず、御息所に知られることを案じる。女房たちに開けられた文には、心深い言葉と魂を詠んだ歌があった。
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現代語で読む
このような〔忍び歩きは〕慣れなさらない心地で、趣深くも気疲れするようにもお思いになりながら、〔三条の〕殿においでになると、女君〔雲居雁〕が、この濡れ様を怪しいと咎めなさりそうなので、六条院の東の御殿に参りなさった。まだ朝霧も晴れず、ましてあちら〔小野〕ではどうだろうと、思いを馳せなさる。
「例のないお出歩きがあったこと」と、人々はささやき合う。しばらくお休みになって、お召し物を脱ぎ替えなさる。いつも夏も冬もとても清らかにしておかれたので、香の御唐櫃から〔衣を〕取り出して差し上げなさる。お粥などを召し上がって、〔源氏の〕御前に参りなさる。
あちら〔宮〕へ〔夕霧が〕お手紙を差し上げなさったが、〔宮は〕ご覧にもならない。突然のあきれた有様を、目に余り恥ずかしくもお思いになり、気が進まなくて、御息所が漏れ聞きなさることも、とても恥ずかしく、また、こんなこととは全くご存じでないのに、ただならぬ様子から〔御息所が〕見つけなさり、人の噂の隠れない世の中なので、自然に聞き合わせて、〔私が〕隔てていたとお思いになるのがとてもつらいので、
「人々がいた通りに〔母に〕申し上げ漏らしてしまおう。つらいとお思いになってもどうしようもない」とお思いになる。
親子のご仲と聞こえる間柄でも、少しも隔てなく思い交わし合っておられた。よその人は漏れ聞いても親に隠す類は昔の物語にもあるようだが、〔宮は〕そのようにはお思いにならない。人々は、
「何だって、ほのかに聞きなさって、今年も〔例の件が〕あるような顔で、あれこれ思い乱れなさるだろうに。早々に、気の毒だ」などと言い合って、どうなるだろうと思い合う仲で、このお手紙の中身が知りたくて、〔宮が〕開けさせなさらないので、気がかりで、
「やはり、全く〔母に〕申し上げなさらないのも、不安で、幼いようにございましょう」などと申し上げて、〔文を〕広げたところ、
「妙に、何の心もない様子で、人にこれほどまでに見える軽はずみさを、自分の過ちと思いなしても、思いやりがなかったあきれた有様も、慰めようがありません。見られないと言いなさい」と、〔予想〕外のことで、〔宮は〕寄り臥せなさってしまった。
実は、憎らしくもなく、とても心深くお書きになって、〔私の〕魂を、つれない〔あなたの〕袖に留めておいて、自分の心から惑わされてしまうことです。ほかのものはともかく、昔も類があったと思いなそうとしても、〔魂の〕行く方は全く分からないばかりです」
など、とても多く〔文面が〕あるようだが、人〔女房たち〕はきちんとは見られない。いつもの様子である今朝のお手紙でもないようだが、やはり思いを晴らすことができない。人々は、〔宮の〕ご様子もお気の毒なのを、嘆かしく拝見しながら、
「どのようなご事情なのでしょうか。何ごとにつけても、得難くしみじみとしたお心の様子は、時が経っても〔変わりませんのに〕」「こんな方面で〔夕霧を〕お頼み申し上げては、見劣りなさるだろう、と思うのも危うく」などと、親しくお仕えする者たちは、互いに思い乱れる。御息所も全くご存じでない。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第39冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。