第39帖 夕霧 / 第8場面
少将の取りなし
あらすじ・人物・読み方
御息所は病の合間に女二の宮を呼ぶよう言い、少将が伝えるが、宮は身支度をしても動けず、噂を思って伏してしまう。少将は御息所への申し上げ方を取りなして宮を慰めようとし、夕方になって宮はようやく御息所のもとへ渡る。
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現代語で読む
「このように少し意識のある間に、〔宮に〕お越しくださるよう申し上げよ。そちらへ〔私が〕参りたいけれど、動くこともできなくて。お目にかからないで、長くなってしまった気がするよ」
と、涙を浮かべておっしゃる。〔少将が宮のもとへ〕参って、
「そのように〔御息所が〕申し上げさせていらっしゃいます」
とだけ申し上げる。
〔御息所のもとへ〕お渡りになろうとして、額髪の濡れて乱れたのを、引きつくろい、単衣の御衣のほころびたのを、着替えなどなさっても、すぐには動くこともおできにならない。
「この人々もどう思うだろうか。まだ〔人々が〕ご存じなくて、後に少しでもお聞きになることがあった時に、〔私が〕素知らぬ顔でいた〔ことになる〕よ」
とお思い合わせになるのも、たいそう恥ずかしいので、またお伏せになった。
「気分がたいそう苦しいことよ。このまま治らないありさまにもなるだろうが、たいそう安らかでありそうなこと。脚の気が上がった気がする」
と、〔脚を〕押し下させなさる。物事をたいそう苦しく、さまざまにお思いになるにつれて、気が上がるのだった。
少将は、
「上の〔御息所〕に、このご事をほのめかし申し上げた人こそいらっしゃいました。どういうことか、とお尋ねさせなさったので、ありのままに申し上げて、障子のお固めだけを、少し事を添えて、はっきりと申し上げました。もし、〔御息所が〕そのようにかすめて申し上げさせなさったら、同じように申し上げなさいませ」
と申す。
お嘆きになっている様子は言葉には出ない。「やはりそうか」と、たいそう侘しくて、何もおっしゃらない御枕から、雫が落ちる。
「このことだけでもなく、〔私の〕身が思わぬことになり始めてから、たいそう物思いばかりを〔宮に〕させ申し上げること」
と、生きる甲斐なく思い続けていらして、「この人〔夕霧〕は、こうなっても止めはせず、あれこれ言い寄ってくるのも、煩わしく、聞き苦しいだろう」と、万事にお思いになる。「まして、言いようもなく、人の言葉によって、どのような悪名を朽ちさせようか」
などと、少しお慰めになる方はあるけれど、「これほど高貴になられた人が、ここまで、むやみに人に見られるようなことはあるまい」と、前世の定めを憂くお思いになって屈し、夕方に、
「やはり、お越しください」
と言うので、中の塗籠の戸を開け合わせて、〔宮は御息所のもとへ〕お渡りになった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第39冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。