第40帖 御法 / 第7場面
紫の上の薨去
あらすじ・人物・読み方
病の苦しさを訴える紫の上は、女三の宮に帰るよう促すが、宮はお手をとって看取り続ける。誦経の使いたちが騒ぎ、一晩中あらゆる手当てが尽くされるが甲斐なく、紫の上は明けきるころに露のように消え果てる。人々は比べようもない別れの悲しみに、明けぐれの夢に惑う心地がする。
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現代語で読む
「〔宮は〕もうお帰りください。乱れた心地がとても苦しくなってしまいました。言っても甲斐のない身になったほどだと言いながら、〔お帰しするのは〕とても失礼なことでしょうか」
と言って、御几帳を引き寄せてお臥しになった様子が、いつもよりとても頼りなげに見えたので、
「どのようにお思いでいらっしゃるのか」
と言って、宮〔女三の宮〕は、〔紫の上の〕お手をとらえ申し上げて、泣く泣く見申し上げていらっしゃると、ほんとうに消えてゆく露のような心地がして、最期の様子に見えたので、御誦経の使いたちが、数も知れず立ち騒いだ。以前も、こうして息を吹き返しなさる折に慣れていらっしゃったので、御物の怪かと疑って、一晩中さまざまなことをし尽くさせなさったけれど、甲斐もなく、明けきるころに〔紫の上は〕消えるようにお亡くなりになった。
宮もお帰りにならず、こうして〔最期を〕見届け申し上げなさったことを、〔人々は〕限りなく〔感慨深く〕思う。誰も彼も、当然の別れとはいえ、比べるもののあることとは思われず、珍しいほど悲しく、明けぐれの夢に惑うほどであるのは、言うまでもない。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第40冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。