ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第40帖 御法 / 第9場面

葬送と明け方の独詠

あらすじ・人物・読み方

紫の上の葬送はその日のうちに営まれ、広い野に人々が立ち込める厳めしい作法の中、御姿ははかない煙となって昇る。十五日の暁、源氏は出家の本意と後の非難の間で思い悩み、胸をせき上げる。夕霧の慰めを受け、夕暮れには数珠の数に紛らわせて涙を消し、明けぐれの夢を詠む独詠を残す。

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現代語で読む

そのまま、その日に、〔紫の上を〕あれこれとお収め申し上げる。定まった寿命のあったことなので、骸を見ながらも〔長く〕過ごしなさることはできなかったのは、辛い世の中であった。はるばると広い野に、場所もないほど〔人々が〕立ち込めて、限りなく厳めしい作法ではあるが、とてもはかない煙となって、はかなくお昇りになったのも、いつものこととはいえ、あっけなく悲しい。

空を歩む心地がして、人にすがっておいでになったのを、拝見する人も、「あれほど厳めしいお身を」と、物の心を知らない下衆までも、泣かない者はなかった。お送りの女房は、まして夢路に惑う心地がして、車から転げ落ちそうなのを、〔人々が〕持て余していた。

昔、大将の君の御母君〔葵の上〕がお亡くなりになった時の暁を思い出しても、あの時は、なお物事が分かっていたためか、月の顔がはっきりと覚えられたのに、今宵はただ暮れ惑っていらっしゃる。

十四日にお亡くなりになって、これは十五日の暁であった。日はとても華やかに昇って、野辺の露も隠れた隈もなく、世の中を思い続けると、ますます厭わしく悲しいので、「〔あの世に〕遅れて行くとしても、何世を経ることだろうか。この悲しさの紛れに、昔からの御本意〔出家〕も遂げたい」とお思いになるけれど、心弱いとの後の非難をお思いになると、「この時期を過ごそう」としなさるにつけ、胸のせき上がる思いは堪えがたかった。

大将の君も、御忌に籠もりなさって、かりそめにも退出なさらず、明け暮れ近くに侍って、心苦しく悲しいご様子を、もっともなことと悲しく拝見なさって、さまざまに慰め申し上げなさる。

風が野分めいて吹く夕暮れに、昔のことを思い出しなさって、「ほのかに拝見したものを」と、恋しく思われなさるにつけ、また「最期の時の夢のような心地がした」などと、人知れず思い続けなさると、堪えがたく悲しいので、人目にはそれほど見せまいと、包み隠して、

「阿弥陀仏、阿弥陀仏」

とお唱えになる数珠の数に紛らわせて、涙の玉を消しなさっていた。

昔の秋の夕べの〔紫の上〕が恋しく思われるのに、〔あの別れは〕今こそ最期と見えた明けぐれの夢であった。と〔詠んだ歌の〕名残までも辛かった。高貴な僧どもを侍らせなさって、定まった念仏は言うまでもなく、法華経などを誦させなさる。〔集まった〕方々は、とてもしみじみとした様子である。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第40冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。