第41帖 幻 / 第2場面
女房たちと紫の上の追憶
あらすじ・人物・読み方
二条院の女房たちは墨染の衣で紫の上を恋い慕い、源氏は独り寝の寂しさの中で、かつて紫の上が恨めしげに見えた折々を思い出して悔やむ。雪の暁に女房の口ずさむ声を聞き、その折の紫の上を偲んで、源氏は憂き世に時を過ごす悲しみを独詠する。
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現代語で読む
女房たちも、長年〔仕えて〕経た者は、墨染の色〔の衣〕をこまやかに着て、悲しさも紛らわせがたく、思いを晴らすべき世もなく〔紫の上を〕恋い申し上げるのに、〔源氏は〕すっかり御方々へもお渡りにならない。〔源氏を〕ひたすらお見申し上げることを慰めとして、長年馴れてお仕えしてきた〔女房たちで〕、〔源氏が〕真剣にお心を留めたりはしなかったが、時々は見放さないように思いなさっていた人々も、かえってこのような寂しいお独り寝になっては、〔源氏は〕たいそう大まかに扱われて、夜のお宿直などにも、あれこれと大勢を、お座のあたりから引き避けながら、侍らせなさる。
所在ないままに、昔の物語などをなさる折々もある。〔紫の上への〕未練のないはずのご出家心が深くなっていくにつけても、そうなり果てるはずもなかったことにつけては、近ごろ〔紫の上が〕何か恨めしくお思いになった様子が時々お見えになったことなどを思い出されるにつけ、「どうして、戯れにでも、また真面目にお気の毒なことにつけても、〔私は紫の上に〕そのような〔恨みの〕心をお見せ申し上げたのだろう。何事も賢明でいらっしゃったご性質だったので、人の深い心もたいそうよくお見知りになりながら、恨み果てることはなかったけれども、一度ごとには、どうなるのだろう〔と案じられたのだろう〕」と〔紫の上が〕お思いになったのを、少しでもお心を乱されたであろうことが、〔源氏には〕お気の毒で悔やまれてお思いになる様子は、胸に余る気持ちがなさる。その折の〔紫の上の〕お心を知り、今も近くお仕え申し上げる人々は、〔そのことを〕ほのぼのと申し上げ始める者もある。
入道の宮〔藤壺〕が〔二条院へ〕お渡りになり始めた頃、その折はまさに、〔嫉妬の〕色にはまったくお出しにならなかったけれども、事にふれるたびに、つまらないことだとお思いになった様子がしみじみと哀れであった中でも、雪が降った明け方に〔紫の上が〕立ちためらって、わが身も冷え入るように感じられて、空の様子が激しかった時に、たいそう親しみ深く穏やかでありながら、袖をひどく泣き濡らされたのを〔源氏から〕引き隠し、せめて気を紛らわそうとなさったほどのご配慮などを、〔源氏は〕一晩中、「夢ででも、あるいはどのような世で〔再び会えるのだろうか〕」と、お思い続けになる。
夜明けにちょうど、〔自分の〕部屋へ下がっていく女房であるらしい者が、「ひどく積もった雪だなあ」という声を聞きつけられた〔源氏は〕、ちょうどその折の気持ちがして、お側〔に紫の上がいないこと〕の寂しさも、言いようもなく悲しい。憂き世の命は雪のように消えてしまうだろうと思いながらも、思いのほかに、なお時ばかりが過ぎていきます。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第41冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。