第43帖 紅梅 / 第13場面
宮の御方への思いと北の方の嘆き
あらすじ・人物・読み方
世俗を離れて引き籠もる宮の御方に、匂宮は深く心を寄せ、若君を通じて文を送る。しかし大納言の心が中の君にあるのを見て、北の方は見当違いで甲斐のないことと嘆く。匂宮の頼りない心を知りつつも、北の方はたまに母として口を出す。
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現代語で読む
宮の御方は、物事をお分かりになるほどにお年を重ねていらっしゃるので、何事も見知り、聞き留めなさらないのではないけれど、「人に姿を見られ、世俗めいた様子になるのは、決して」とお思いになって離れていらっしゃる。
世間の人も、時流に流される心があるからか、表向きの御方々には、心を尽くして申し上げあぐね、今風なことが多いけれど、こちら〔宮の御方〕は、万事につけて、物静かに引き籠っていらっしゃるのを、宮〔匂宮〕は、〔宮の御方に〕ふさわしい方としてお聞き伝えになって、深く、どうにかして、とお思いになるようになった。
〔匂宮は〕若君を、いつも側に呼び寄せていらっしゃりながら、ひそかに〔宮の御方へ〕お手紙を差し上げるけれど、大納言の君が、深く〔中の君に〕心をおかけ申し上げていて、「〔匂宮が中の君に〕そのように思い立っておっしゃることがあれば」と、様子を察して、心構えをしていらっしゃるのを見ると、気の毒で、
「〔匂宮は〕見当違いにも、このように思い寄りようもない方にだけ、長々と言葉を尽くしていらっしゃる、甲斐のないこと」
と、北の方もお思いになりおっしゃる。
〔宮の御方からの〕はかないお返事などもないので、〔匂宮は〕負けじのお心が加わって、思いをお止めになるはずもない。「どうしてか、〔宮の御方の〕お姿を、なぜか、ぜひとも拝見したくなり、将来も長くなどとお見えになるのに」などと、北の方がお思い寄せる時々があるけれど、〔匂宮は〕たいそう色めいていらっしゃって、お通いになる忍び所も多く、八の宮の姫君にも、お心寄せが浅くなく、たいそう頻繁にお通いになっていらっしゃる。頼りなさそうなお心の、浮ついた様子なども、ますます憚られるので、〔北の方は匂宮を宮の御方の婿と〕真剣には思い絶えているけれど、恐れ多いばかりに、ひそかに、母君〔北の方〕が、たまにお節介めいて申し上げなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第43冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。