第43帖 紅梅 / 第12場面
北の方の帰邸と移り香の噂
あらすじ・人物・読み方
宮仕えから帰った北の方が、若君の移り香をめぐる匂宮の様子を話すと、大納言は紅梅を折って差し上げたためだと明かす。大納言は源中納言と匂宮を比べ、花に寄せてまず匂宮への期待をほのめかす。
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現代語で読む
北の方が〔宮仕えから〕退出なさって、内裏辺りのことをお話しになるついでに、
「若君が、一晩、〔内裏に〕宿直して、退出してきた時の匂いが、とても趣深かったのを、〔他の〕人々はなおさら〔素晴らしい〕と思ったそうですが、宮が、たいそう心を寄せられて、『〔若君は〕兵部卿宮にお近づき申し上げたのだ。なるほど、〔宮は〕私を疎んじなさった』と、〔その匂いから〕様子を察して、〔宮が〕お恨みになったというのです。こちらへ、〔匂宮から〕お手紙がありましたか。そんな様子は見えませんでしたのに」
とおっしゃると、
「なるほど、そうだったのです。梅の花を愛でなさるお方〔匂宮〕ですから、あちらの端の紅梅が、たいそう盛りに見えたのを、ただではおかず、折って差し上げたのでした。移り香は、なるほど格別なものです。晴れの交際をなさるような女性などは、〔匂宮に〕とてもそのような〔移り香を〕お嗅がせすることはできないでしょうね。
源中納言は、このように好ましくぱっと匂わせるようなことはなく、人柄こそ世にまたとない方ですが。不思議なことで、前世の約束がどのような報いになったのかと、知りたいことではあります。
同じ花の名でも、梅は生い出た根こそが趣深いのです。この宮〔匂宮〕などがお愛でになるのも、もっともなことです」
などと、花に寄せても、まず〔匂宮のことから〕ほのめかし申し上げなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第43冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。