ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第47帖 総角 / 第20場面

女一の宮と若草の歌

あらすじ・人物・読み方

匂宮は姉の女一の宮を訪ね、その気品に打たれながらも、宇治の姫君たちへの思いを忘れられない。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

時雨がひどく降って〔やんだ〕穏やかな日、〔匂宮が〕女一の宮の御方に参りなさると、御前には人も多くは控えておらず、しんみりと、絵などをご覧になる時であった。

御几帳だけを隔てて、〔匂宮は女一の宮に〕お話し申し上げなさる。限りなく上品で気高い上に、しなやかで趣のあるご気配を、年来比べるものがないものとお思い申し上げてきて、

「ほかに、このご様子に比べられる人が世にいるだろうか。冷泉院の姫宮だけは、ご寵愛のほども、奥ゆかしいご気配も奥ゆかしく聞こえるけれど、表に出る方もなく〔匂宮は〕思い続けていらっしゃるのに、あの山里の人〔中の君〕は、可憐で上品な点で、劣り申し上げるはずがないのだ」

などと、まず思い出すにつけ、ますます恋しくて、慰めに、絵がたくさん散らばっているのをご覧になると、趣のありそうな女絵の数々が、恋する男の住まいなどを描き交ぜ、山里の趣のある家などを、それぞれに世の有様を描いたもので、自分のことに引き比べられることが多くて、御目が留まりなさると、少し申し上げなさって、「あちら〔宇治〕へ差し上げよう」とお思いになる。

在五の物語を描いて、妹に琴を教えている所の、「人が結ぶだろう」と言っているのを見て、どうお思いだろうかと、少し近くに参り寄りなさって、

「昔の人も、そうあるべき間柄では、隔てなく慣れ親しんではいたそうです。とてもよそよそしくばかりお振る舞いになるのが〔残念です〕」

と、忍んで申し上げなさると、「どんな絵だろう」とお思いになるのに、押し巻いて寄せて、御前に差し入れなさったのを、うつ伏してご覧になる御髪がそよと靡いて、こぼれ出た片側だけを、かすかに拝見なさったのが、飽きることなく素晴らしく、「少しでも隔てのある人と思い申し上げていたら」とお思いになるにつけ、堪えがたくて、

若草の「ね」に寝を掛けて、あなたと共寝しようなどとは思わないけれど、心が結ぼうれて乱れるような気持ちがするのです。

御前にいた人々は、この宮〔匂宮〕を特に恥ずかしく思い申し上げて、物の後ろに隠れた。「今年も〔こんなことが〕あるとは、不快で変だ」と〔女一の宮は〕お思いになるので、何もおっしゃらない。もっともなことで、「隔てなく物を」と言った姫君〔在五の物語の妹〕も、〔匂宮に〕なじまされて憎らしくお思われになる。

紫の上が、特にこのお二人〔匂宮と女一の宮〕を慣れ親しませ申し上げなさったので、多くの御方々の中でも、隔てなく思い交わし申し上げていらっしゃった。世にないほど大切にお世話申し上げなさって、仕える人々も、片方に少し物足りないところがあるのは、みっともない〔ほどである〕。高貴な人の御娘などもとても多かった。

御心の移ろいやすい〔匂宮〕は、珍しい人々に、はかなく言い寄ったりなさりながらも、あの辺り〔宇治〕をお忘れになる時がないものの、訪れなさらないまま日数が経った。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。