第47帖 総角 / 第21場面
薫の見舞い
あらすじ・人物・読み方
病む大君を薫が見舞う。供人の噂話から、匂宮と六の君の婚儀が近いことを大君は知ってしまう。
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現代語で読む
お待ち申し上げている所〔宇治〕では、訪れの間が遠い気がして、「やはり、こうなのだ」と、心細く眺めていらっしゃると、中納言〔薫〕がおいでになった。〔大君が〕ご病気らしいと聞いて、お見舞いだったのである。とても気分が乱れるほどのご病気でもないけれど、口実を作って、〔大君は薫と〕対面なさらない。
「驚いて、遠い道のりを参ってまいりましたのに。やはり、あのご病気でいらっしゃるごそば近くに〔お通しください〕」
と、切に心配だと申し上げなさるので、〔女房たちは〕くつろいでお住まいになる方の御簾の前に入れ申し上げる。「とても傍らにいるのが辛いことだ」と苦しがりなさるけれど、憎らしい様子ではなく、御頭を持ち上げて、お返事などを申し上げなさる。
宮〔匂宮〕の、御心も満ち足りずにお帰りになった様子などを、〔大君は薫に〕語り申し上げなさって、
「穏やかにお思いなさい。心苛立って、恨み申し上げなさるな」
などと教え申し上げなさると、
「こちら〔中の君〕には、何とも申し上げなさらないようです。亡き人〔父宮〕のご戒めはこのようなことにこそ〔当てはまる〕と、拝見するばかりで、気の毒でした」
と言って、泣きなさる様子である。〔薫は〕とても心苦しく、自分まで恥ずかしい気がして、
「世の中は、どうあっても同じ様子で過ごすことは難しいものです。どんなこともご存じない御心には、一方的に恨めしいなどお思いになることもあるでしょうが、無理にでもお気持ちを静めなさい。気がかりなことは決してありませんと、思っております」
などと、人の御身の上まで世話をするのも、一方では変にも思われる。
夜ごとには、ますますひどく苦しそうになさったので、親しくない人〔薫〕のご気配が近くにあるのも、中の君が苦しくお思いになったので、
「やはり、いつもの、あちらに〔お下がりください〕」
と人々が申し上げるけれど、
「まして、このように煩っていらっしゃる間の気がかりさを思えば。思いのままに参って来て、そのまま帰してしまわれては、とてもたまらない。このような時のお世話も、誰がしっかりお仕え申し上げるだろうか」
などと、弁のおもとに語らいなさって、御修法などを始めるべきことをおっしゃる。「とても見苦しく、わざわざ嫌らしい身を」と〔大君は〕お聞きになるけれど、思いの隅々までおっしゃるのも不快なので、そうはいっても、長生きしてほしいと思いなさる〔薫の〕心遣いも心打たれる。
翌朝、「少しでもよろしくお思いになりますか。昨日だけでもお話し申し上げたい」と〔薫が〕言うと、
「日数が経ったからでしょうか、今日はとても苦しいのです。それなら、こちらへ」
と言い出しなさった。とても痛ましく、どうなさってしまうのだろうか、いつもより親しげなご様子なのも、胸がつぶれるように思われるので、近くに寄って、あらゆることを申し上げなさって、
「苦しくて聞くことができません。少し待っている間に」
と言って、とてもかすかで痛ましいご気配を、限りなく心苦しくて〔薫は〕嘆いておられた。そうはいっても、所在なくそうしてはいらっしゃりにくいので、とても気がかりだけれど、お帰りになる。
「このようなお住まいは、やはり苦しいところでした。〔大君が〕場所をお移りになるのにこと寄せて、ふさわしい所にお移し申し上げよう」
などと申し上げ置いて、阿闍梨にも、お祈りを心を込めてするようにと言い知らせて、お出かけになった。
この君〔薫〕のお供の人が、いつの間にか、ここ〔宇治〕にいる若い人に語らい寄っていたのであった。お互いの話の中で、
「あの宮〔匂宮〕は、お忍び歩きを制止されなさって、内裏にだけ籠もっていらっしゃいます。左の大殿の君〔六の君〕を、〔宮に〕お合わせ申し上げなさるそうです。女方は、年来のご本望ですので、お気持ちが滞ることもなくて、年内にも〔結婚が〕あるはずだそうです。
宮〔匂宮〕は渋々お思いになって、内裏の辺りでも、ただ色めいたことに御心を入れて、帝后のご戒めに静まりなさるはずもなさそうだ。
「私どもの殿〔匂宮〕は、やはり不思議なほど普通の人とはお違いで、あまりに真面目でいらして、人を思い悩ませなさいます。ここへこうしてお通いになるだけでも、目にも鮮やかな、並々でないことです、と人々が申します」
〔大君は〕そんな話を、「きっとそう言ったのだろう」などと人々が語り合うのを聞いて、ますます胸が塞がる思いで、
「今がもう最後ということなのだろう。高貴な方〔匂宮〕のもとに〔中の君が〕定まるわけでもなく、気まぐれなお戯れに、ここまで思いを寄せられたのを、さすがに中納言〔薫〕などがどう思うかを気遣って、言葉の限りを尽くして深く言われたのだ」
と思い定めるにつけ、どうにも人のつらさは思い知ることもなく、ますます身の置き所のない心地がして、〔大君は〕しおれて臥せっていた。
〔大君の〕弱ったお身体は、ますますこの世に生き留まることができそうにも思われない。気恥ずしいような人々ではないが、〔人々が〕どう思うかと思うのが苦しいので、聞かないふりをして寝ていらっしゃるのを、中の君は、物思いに沈む時の癖と聞いていた、うたた寝のご様子がとてもいとおしく、腕を枕にして寝ていらっしゃるところに、お髪が垂れかかるほどなど、得がたく美しいのを見やりながら、親〔八の宮〕が諌めた言葉も、繰り返し思い出されて悲しいので、
「罪深い底に、まさか沈んでいらっしゃることはありますまい。どこにでもどこにでも、いらっしゃる方へお迎えください。こんなにひどく物思いする私どもをお捨てになって、夢にさえお姿を見せてくださらないのですね」
と〔中の君は〕思い続けていらっしゃる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。