ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第52帖 蜻蛉 / 第16場面

宮の君を迎える

あらすじ・人物・読み方

亡き式部卿宮の姫君が迎え取られ、二条院に身を寄せる。匂宮はこの宮の君に心をかけ、薫も侍従の姿に亡き人を思う。

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蜻蛉・第16場面0 / 23
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この春お亡くなりになった式部卿宮の御女を、継母の北の方が、特に相思わないで、兄の馬頭で人柄も格別なこともない、心かけていたのを、痛々しいなども思いなさらないで、そうあるべき様に契る、とお聞きになる便りがあって、

「痛々しい。父宮がひどくかしずきなさった女君を、いたずらな様に持て成そうこと」

など仰せさせたので、ひどく心細くばかり思い嘆きなさる有様で、

「懐かしく、このように尋ね仰るのを」

など、御兄の侍従も言って、この頃迎え取らせなさってしまった。姫宮の御具で、ひどくこの上ない御ほどの人なので、やんごとなく心特にてお仕えなさる。限りがあるので、宮の君などうち言って、裳ばかり引き掛けなさるのが、ひどくあはれだった。

兵部卿宮は、「この君ばかりか、恋しい人に思い寄せつべき様子だろう。父親王は兄弟だよ」など、例の御心は、人を恋いなさるに付けても、人行かしい御癖まで、いつしかと御心をかけなさっていた。

大将は、「もどかしいまでもある業だな。昨日今日と言うほど、春宮かなど思い、我にも様子ばませなさっていたよ。このように儚い世の衰えを見るのには、水の底に身を沈めても、もどかしくない業にこそ」など思いつつ、人よりは心を寄せ申し上げていた。

この院においでのをば、内裏よりも広く面白く住み良い物にして、常にしも仕えない者どもも、皆うち解け住みつつ、遥々と多い対ども、廊、渡殿に満ちていた。

左大臣殿は、昔の御気配にも劣らず、全て限りもなく営みお仕えなさる。厳しくなった御族なので、なかなか昔よりも、今めかしいことは増してさえあった。

この宮は、例の御心ならば、月ごろのほどに、どのような好き事どもをし出でなさるだろうに、この上なく静まりなさって、人目に「少しお生い直しなさるかな」と見えるのを、この頃ぞまた、宮の君に、本性が現れて、関わり歩きなさっていた。

涼しくなったといって、宮が、内裏に参らせなさろうとすると、

「秋の盛り、紅葉の頃を見ないのは」

など、若い人々は口惜しがって、皆参り集まっていた頃だ。水に馴れ月をめでて、御遊びが絶えず、常よりも今めかしいので、この宮ぞ、このような筋はひどくこの上なく持て囃しなさる。朝夕目慣れしても、なお今見よう初花の様子なさるのに、大将の君は、ひどくそうも入り立ちなどしなさらないほどで、恥ずかしく心緩びない物に、皆思っていた。

例の、二所参りなさって、御前においでのほどに、あの侍従は、物から覗き申し上げるのに、

「どちらの方にもどちらの方にも寄って、目出度い御宿世が見えた様子で、世にぞいらっしゃったろう。浅ましく儚く、心憂かった御心だなあ」

など、人には、そのあたりの事、かけて知り顔にも言わないことなので、心一つに飽かず胸が痛く思う。宮は、内裏の御物語など、細やかに申し上げさせなさると、今一所は立ち出でなさる。「見つけられ申し上げまい。しばし、御果てをも過ぎさせず心浅い、と見え申し上げまい」と思うと、隠れない。

東の渡殿に、開き合った戸口に、人々が数多いて、物語などする所においでになって、

「何某をぞ、女房は睦ましいと思うべきだ。女でさえこのように心安くはよもないだろうよ。さすがにそうあるべきこと、教え申し上げないべくもある。ようやく見知りなさるべく見えれば、ひどく嬉しい」

と仰ると、ひどく応えにくくばかり思う中に、弁の御許といって、馴れた大人が、

「そもそも睦ましく思い申し上げるべき故ない人が、恥じ申し上げないのだろうか。物はそうこそはなかなかあるようです。必ずその故を尋ねて、うち解け御覧になられるにもありませんが、これほど面無く作り初めていた身に負わせないのも、傍ら痛くて」

と申し上げると、

「恥ずべき故はあるまい、と思い定めなさっていたのこそ、口惜しい」

など、仰りつつ御覧になると、唐衣は脱ぎ滑べし押しやり、うち解けて手習いしていたのだろう、硯の蓋に据えて、心もとない花の末を手折って、弄んでいた、と見える。片方は几帳のあるのに滑り隠れ、あるいはうち背き、押し開けた戸の方に、紛らわしつつ居た、頭つきどもも、風情があると見渡しなさって、硯を引き寄せて、

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第52冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。