第52帖 蜻蛉 / 第17場面
女郎花の贈答
あらすじ・人物・読み方
薫は障子越しの宮の君に女郎花の歌を書いて見せ、弁の御許を交えて軽やかな贈答が交わされる。
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女郎花の乱れる野辺に混じるとしても、露のような浮名を私にかけたりするものか。
心安くは思いなさらないで」
と、ただこの障子に後ろした人に見せなさると、うちみじろきなどもせず、のどやかに、ひどく早く、
花といえば名こそ浮薄な女郎花。並べての露に乱れたりするものか。
と書いた手、ただ片側だけれど、由づいていて、大方目安いので、誰だろう、と御覧になる。今参り上った道に、塞げられて滞っていたのだろう、と見える。弁の御許は、
「ひどく気障な翁言、憎くあります」と言って、
旅寝をしてなお試みなさい。女郎花の盛りの色に心移りするかどうかを。
そうして後、定め申し上げさせよう」
と言うと、
宿を貸すなら一夜は寝ましょう。大方の花に移らない心であっても。
とあるので、
「何か、恥ずかしめさせなさる。大方の野辺のさかしらをこそ申し上げさせます」
と言う。儚いことをただ少し仰るのも、人は残りを聞きたくばかり思い申し上げていた。
「心ない。道を開けましょうよ。分けても、あの御物恥じの故、必ずあるべき折にぞあるようです」
と言って、立ち出でなさると、「並べてこのように残りないだろう、と思いやりなさるのこそ心憂い」と思う人もいる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第52冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。