ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第53帖 手習 / 第12場面

中将の夜の訪問

あらすじ・人物・読み方

尼君の留守に中将が夜更けて訪れ、歌を交わして迫るが、浮舟は老尼の部屋に身を隠して応じない。

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手習・第12場面0 / 31
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月が差し出て美しい頃に、昼、文があった中将がいらっしゃった。「ああ、情けない。これは、何事か」と思うと、奥深く入るのを、

「それにしても、あまりにもいらっしゃるものですね。お志の程も、感慨が増す折にこそ、あるようです。ほのかにも、申し上げることを、聞かせてください。染み付くことのように、思いなさっているのは」

など言うのに、たいそうみっともなく思われる。いらっしゃらない旨を言うけれど、昼の使いが、一所などを問い聞いたのだろう、言い言が多く恨んで、「お声も聞きません。ただ、気近くて、申し上げることを、聞き苦しいとも、どうとも、思い、断ってください」

と、万事に、言い侘びて、「たいそう心痛い。所によってこそ、物の哀れも増す。あまりにこのようなのは」など、軽んじながら、

山里の秋の夜更けのあはれを、もの思う人こそ思い知ってください。自然にお心も通ってしまうだろうのを」などあるので、「尼君がいらっしゃらず、紛らわし申し上げる人もおりません。たいそう世に合わないようでしょう」

と責めると、憂きものとも思いも知らず過ごす身を、もの思う人だと人は知ったことでした。わざわざ返事ともないのを、聞いて、伝え申し上げると、たいそう感慨深いと思って、

「なお、ただすこしお出くださいと、申し上げ動かせ」と、この人びとを、止めどなく恨む。「不思議なまで、素っ気なく見えることよ」

と言って、入って見ると、例は、仮初めにも差し覗かない、老人の御方に入ってしまった。驚いて、「このようです」と申し上げると、

「このような所に、眺めているだろう、心のうちの哀れさに、大方の様子なども、情けなくないはずの人が、たいそうあまりに思い知らない人よりも、殊に振る舞っているようだ。

それは、物懲りしているのか。なお、どのような様子で、世を恨んで、いつまでいらっしゃるべき人か」など、様子を問うて、たいそう知りたそうに思うけれど、詳しいことは、どうして言い聞かせようか。ただ、

「ご存じ申し上げるべき人が、年ごろは、疎いように過ごしていたのを、初瀬に詣で会って、尋ね申し上げた」と言う。

姫君は、「たいそう難しい」とばかり聞く、老人のあたりにうつ伏し臥して、寝ることもできない。宵のうたた寝は、言いようもなく、物々しいいびきをしながら、前にも、打ち沿っていた尼たちが二人して、劣らないようにいびきを合わせている。

たいそう恐ろしく、「今宵、この人びとに食われてしまうのか」と思うのも、惜しくない身だけれど、例の心弱さは、一つ橋を危ながって帰って来た者のように、侘しく思われる。

こもきを、共に連れていらっしゃったけれど、色めいて、この珍しい男の、艶立っている方に、帰ってしまった。「今来るか、今来るか」と待ち続けていたけれど、たいそう儚い、頼もしい人だな。中将が、言いかねて帰ってしまったので、

「たいそう、情けなく、埋もれていらっしゃいますな。もったいないお容貌を」など、非難して、皆一所に寝た。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第53冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。