ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第53帖 手習 / 第13場面

夜半のあやかしと剃髪の決意

あらすじ・人物・読み方

夜半、鼬の影に怯えながら浮舟は来し方を思い続け、僧都の下山を機に正式に尼になる決意を固める。

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手習・第13場面0 / 39
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「夜中ほどになったのだろう」と思う頃に、尼君が、咳に、咽せて、起き上がった。火影に、頭つきは、たいそう白いのに、黒い物を被って、この君の臥せっているのを、不思議がって、鼬とか言う物がする業をする、額に手を当てて、

「不思議だ。これは、誰だ」と、執念げな声で、見起こしたのが、まったく、「たった今、食ってしまおうとする」と思われる。鬼が、取り持って来た程は、物の覚えがなかったので、かえって、心安い。

「どうしよう」と思う難しさにも、「ひどい様子で生き返り、人になって、またあった色々の、憂い事を思い乱れ、難しいとも、恐ろしいとも、物を思うことよ。

死んでいたら、これよりも恐ろしそうな、者どもの中にこそ、いただろう」と思いやられる。昔よりの事を、眠れないままに、常よりも思い続けるのに、

「たいそう心痛く、親と聞いた人のお容貌も、お目にかからず、遥かな東を、帰る帰る、年月を行って、たまたま尋ね寄って、嬉しく、頼もしいと思い申し上げた、姉妹の御あたりをも、

思いもよらず、絶え過ぎて、その方に思い定めた人のことで、だんだん身の憂さをも、慰めるべき極みに、情けなく、損なってしまった身を思い続けると、宮を、

すこしも哀れと思い申し上げた、心がたいそう、怪しからぬ。ただ、この人のお縁で、さすらってしまったのだ」と思うと、「小島の色を、例に、契ったのを、どうして、面白いと、思い申し上げたのだろう」と、この上なく飽きてしまった心地がする。

初めより、薄いながらも、穏やかにいらっしゃった人は、この折、あの折など、思い出すのが、この上なかった。「こうして生きていた」と、聞き付けられる恥ずかしさは、人より勝っているだろう。

さすがに、「この世には、在ったお姿を、よそながらにでもいつか見ようと、ふと思う、なお、悪い心だ。このようにさえ思うまい」など、心一つを返し合う。

辛うじて、鶏の鳴くのを聞いて、たいそう嬉しい。「母のお声を聞いたら、ましてどうだろう」と思い明かして、心地もたいそう悪い。供で、移るべき人も、直ぐに来ないので、なお臥せっているのに、いびきの人は、たいそう早く起きて、粥など、難しい事どもを、持て囃して、

「御前に、早くお聞き召せ」など、寄って来て言うけれど、賄いもますます、心付かず、情けなく見知らぬ心地して、「煩わしくて」と、事無しびるのを、無理に言うのも、たいそう苦しい。

下衆下衆しい、法師ばらなどが、大勢来て、「僧都が、今日、下りなさるはずだ」「どうして、急には」と問うと、「一品の宮が、お物の怪に悩んでいらっしゃる、山の座主が、御修法をなさるけれど、なお、僧都が参らなければ、験がないと言って、昨日、二度、召しがありました。

右大臣殿の四位少将が、昨夜、夜更けて登っていらっしゃって、后の宮のお文などがありましたので、下りなさるのです」など、たいそう華やかに言いなす。「恥ずかしくとも、会って、尼にしてくださいと、言おう。

賢しらな人が少なくて、良い折にこそ」と思うと、起きて、「心地が、たいそう悪くばかりおりますのを、僧都が、下りなさる時に、忌む事を受けようと思いますのを、そのように、申し上げてください」

と語らうと、ぼんやりと、頷く。例の方にいらっしゃって、髪は尼君だけが削るのを、他人に手触れさせるのも、情けなく思われるのに、手ずからも、できないことなので、ただすこし、解き下ろして、

親に、今一度、このままの様子を見せずに終わってしまうのは、人のせいではなく、たいそう悲しい。ひどく煩ったせいか、髪もすこし、落ち細った、心地はするけれど、何ほども、衰えず、たいそう多くて、六尺ほどある末などが、たいそう美しかった。

筋なども、たいそう細かに、美しい。「こうあれと言ってこそ」と、独り言を言っている。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第53冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。