第53帖 手習 / 第16場面
尼君の帰還
あらすじ・人物・読み方
初瀬から帰った尼君は浮舟の剃髪を嘆き悲しみ、鈍色の衣や袈裟を用意する。
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手習・第16場面0 / 8
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物詣での人(尼君)が帰って、思い騒ぐこと、限りない。「このような身では、勧め申し上げることこそ、と思いなしておりますけれど、残り多いお身を、どうやって、経ていらっしゃるのでしょう。
自分は、世にいること、今日、明日とも知り難いのに、どうにか、後ろ安く、お目にかかろうと、万事に思っていたからこそ、仏にも、祈り申し上げたのです」
と、伏し転びながら、たいそう痛ましげに思っているのに、本当の親が、そのまま、骸もないものと、思い惑っただろう程を推し量るのが、まずたいそう悲しかった。
例の、返事もせず、背いて座っている様子が、たいそう若く美しいので、「たいそう物儚くていらっしゃるお心だ」と、泣く泣く、御衣の事などを急ぐ。
鈍色は、手馴れた事なので、小袿、袈裟などしている。いる人びとも、このような色を縫い、着せ申し上げるにつけても、「たいそう覚えず、嬉しい山里の光と、明け暮れ、お目にかかっていたものを、残念な業だな」
と、惜しがりながら、僧都を恨み非難した。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第53冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。