ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第53帖 手習 / 第17場面

一品の宮と僧都の物語

あらすじ・人物・読み方

一品の宮の修法の夜、僧都は宇治の院で見つけた女のことを語り、居合わせた薫と宰相の耳に入る。

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手習・第17場面0 / 48
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一品の宮の御悩みは、本当に、あの弟子が言った通り、著しい事どもがあって、お治りになったので、ますますたいそう、尊いものと言い、喧伝する。

名残も恐ろしいので、御修法を延ばさせると、直ぐには帰り入ることができず、仕えているのに、雨などが降って、静かな夜、召して、夜居に仕えさせる。

日ごろひどく仕え極めた人は、みな休みなどして、御前に人が少なく、近く起きている人が少ない折に、同じ御帳にいらっしゃって、「昔より頼りにしている中でも、このたび、ますます、後の世も、このようであろうと、頼もしいことが優った」

などおっしゃらせる。「世の中に、久しくいるまじき様子に、仏なども教えた、事どもがあるうちに、今年、来年、過ごし難いように、ありますので、仏を、紛れなく念じ勤めようと思って、

深く籠もっているのを、このような仰せ事で、退出してしまいました」など、啓す。お物の怪の執念深いことを、さまざまに名乗るのが恐ろしいことなど、おっしゃる序でに、

「たいそう不思議に、希有なことを、見ました。この三月に、年老いて、いる母が、願いあって初瀬に詣でて、帰りの中宿に、宇治の院と言う所に、宿ったのを、このように、人住まず、年経った大きな所は、

良くない物が、必ず、通い住んで、重い病者のため、悪い事どもと思ったのも、著しく」と言って、あの見つけた、事どもを、語り申し上げる。

「本当に、たいそう珍しいことだな」と言って、近く仕える人びとが、みな、寝入っているのを、恐ろしく思って、起こさせる。大将が、語らう、宰相の君だけが、このことを聞いた。

起こさせられる人びとは、何とも、聞かなかった。僧都は、恐がらせていらっしゃるお様子を、「心もないことを、啓してしまった」と思って、詳しくもその程のことを言いさした。

「その女は、このたび、退出した便りに、小野に、いた尼たちを、訪ねようと思って、寄っていましたところ、泣く泣く、出家の志が深い旨を、

丁寧に、語っていましたので、頭を下ろしてしまいました。私の、妹、故衛門督の妻であった尼が、亡くなった、娘の代わりにと、思い喜んで、随分に労わり大切にしていたのに、こうなったので、恨んでいます。

本当に、容貌は、たいそう美しく、清らかで、修行にやつれるのも、かわいそうな様子でした。何人でしょうか」と、物をよく言う、僧都で、語り続け申し上げると、

「どうして、あの所に、よい人を、連れて行ったのだろう。それでも、今は知られていないだろう」など、この宰相の君が尋ねる。「知りません。そうも、語っているのでしょうか。本当に高貴な人ならば、何か、隠れることも、ないでしょう。

田舎人の、娘も、そのような様子をしているでしょう。龍の中から、仏が生まれることはないでしょう。普通の人としては、たいそう、罪軽い様子の人でした」

など、申し上げる。その頃、あの辺りに、消え失せた人を、思い出す。この御前にいる人も、姉の君の伝えに、不思議に、亡くなった人とは聞き置いていたので、「それだろうか」とは思ったけれど、定かでないことだ。

僧都も、「このような人が、世に生きているとも、知られまいと、良くもない、敵めいた人もいるように、思い向けて、隠し、忍んでいるのを、事の様子が不思議なので、啓するのです」

と、半ば隠す様子なので、人にも、語らない。宮は、「それにしても。大将に、聞かせたい」と、この人に、おっしゃらせるけれど、どちらにも、隠すべきことを、定めて、そうなるだろうとも、知りながら、恥ずかしげな人に、打ち出して、おっしゃらせるのも、遠慮がちに思って、止んでしまった。

姫宮が、すっかりお治りになって、僧都も、登った。あちら(小野)に寄ると、ひどく恨んで、「かえって、このようなお様子で、罪も、得るだろうことを、おっしゃりも、合わせずに、なってしまったことを、たいそう不思議だ」

などおっしゃるけれど、甲斐もない。「今は、ただ、御行いを、なさい。老いた者、若い者、定めない世です。儚いものに思い、取ったのも、道理なお身を」

とおっしゃるのにも、たいそう恥ずかしく思われた。「御法服を、新しくしなさい」と言って、綾、羅、絹など言う物を、奉って置く。「私が、いる限りは、仕えましょう。何か、思い煩うべきことがあろうか。

常の世に生まれ出て、世間の栄華に、願い纏わる限りは、所狭く、捨て難く、自分も人も、思うべきような、ことです。このような林の中に、行い、勤める身は、何事か、恨めしくも、恥ずかしくも、思うべきだろうか。このある命は、葉の薄いようです」

と言い知らせて、「松門に、暁到りて、月徘徊す」と、法師ながら、たいそう品よく、奥ゆかしい様子で、おっしゃる事どもを、「思うようにも、言い聞かせるなあ」と、聞いている。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第53冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。