ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第53帖 手習 / 第18場面

晩秋の訪問と文

あらすじ・人物・読み方

剃髪後の浮舟を訪ねた中将は、その変わらぬ美しさに涙し、帰京の後もねむごろな文を送り続ける。

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手習・第18場面0 / 49
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現代語で読む

今日は、一日中吹く、風の音もたいそう、心細いのに、いらっしゃった人も、「哀れ、山伏は、このような日に、音は泣かれるという」と言うのを聞いて、「私も今は山伏だ。

道理に、止まらない涙だった」と思いながら、端の方に立ち出て見ると、遥かな軒端から、狩衣姿が、色々に立ち混じって、見える。山へ、登る人、であっても、こちらの道には、通う人も、たいそうたまたまだ。

黒谷とか言う方から、歩く法師の跡だけ、稀々は、見えるのを、例の姿で、見つけたのは、無愛想に、珍しいのに、この恨み侘びた、中将だった。

甲斐ないことも言おうとして、いらっしゃったのを、紅葉がたいそう美しく、他の紅に、染め増しした色々なので、入って来る時から、物哀れだった。

「ここに、たいそう心地よさそうな人を、見つけたら、不思議に思われるだろう」など思って、「暇あって、所在ない心地がしますのに、紅葉もどうだろうかと思って。なお、立ち返って、旅寝もできそうな、木の下にこそ」

と言って、見出している。尼君は、例の、涙もろくて、木枯らしの吹いた山の麓には、立ち隠れる蔭さえありません。とおっしゃると、

待つ人もいないだろうと思う山里の梢を見ながら、なお過ごしにくく思われます。言い甲斐ない人のお事を、なお尽きずに、おっしゃって、「様子、変わっていらっしゃる様子を、すこし、見せよ」

と、少将の尼におっしゃる。「それをだけでも、契った印にせよ」と責めると、入って見ると、わざわざ、人にも見せたい様子をしていらっしゃる。

薄い鈍色の綾、中に、萱草など、澄んだ色を着て、たいそう小柄に、様体が美しく、今様めいた容貌に、髪は五重の扇を広げたように、たっぷりした末つきだ。

細かに美しい、顔様の、化粧をひどくしたようなように、赤く、匂っているあたり。行い、などをなさるのも、なお、数珠は、近くの几帳に打ち掛けて、経に心を入れて、読んでいる様子は、絵にも、描きたい。

見るごとに、涙の、止め難い、心地がするのを、「まして、心をかけている男は、どのように、お目にかかるだろう」と思って、そうなるべき折にでもあったのか、障子の掛金の元に、開いた穴を、教えて、

紛れるべき、几帳などを、押しやってある。「たいそうこのようには、思っていなかった。ひどく思う様子、だった人を」と、自分の、した過ちのように、惜しく、悔しく、悲しいので、包みきれず、物狂おしいまで、気配も、聞こえないだろうので、退いた。

「これほどの、様子をした人を、失って、尋ねない人が、いただろうか。また、その人、あの人の娘が、行方も、知らず、隠れてしまった、もしかすると物を恨んで、世を背いたのだろう、など、自然に、隠れ無いはずなのを」など、不思議に、返す返す思う。

「尼であっても、このような様子をした人は、情けなくも思えない」など、「かえって、見所が優って、心苦しいだろうのを、忍んでいる様子に、なお、語らい、取ってしまおう」と思うと、真面目に語らう。

「世の常の様子には、思い憚ることも、あっただろうのを、このような様子に、なってしまったのは、心安く、申し上げられそうです。そのように、教え申し上げてください。

来し方の、忘れ難くて、このように、参って来るのに、また、もう一つ、志を添えてこそ」などおっしゃる。「たいそう、行く末、心細く、後ろめたい様子に、あるのに、真面目な様子で、思い忘れず、訪ねてくださるのは、たいそう嬉しく、思い置くでしょう。

いなくなった、後こそ、哀れに、思われるでしょう」と言って、お泣きになるのに、「この尼君も、離れない人なのだろう。誰だろう」と心得難い。

「行く末の、御後見は、命も、知り難く、頼もしげない身だけれど、そう申し上げ始めているので、まったく、変わりません。尋ね申し上げるべき人は、本当に、いらっしゃらないのですか。

そのような事の、おぼつかないのに、憚るべき、事ではありませんけれど、なお、隔てのある、心地がするでしょう」とおっしゃると、「人に知られるべき様子で、世に、経ていらっしゃれば、そうも、尋ね出す人も、いるでしょう。今は、このような方に、思い切った、様子です。

心の趣も、そのように、見えていましたのを」など、語らう。こちらにも、消息をしている。

おおかた世を背いたあなたですが、厭うということに寄せて、わが身がつらく思われます。丁寧に、深く、申し上げる事など、言い伝える。「兄妹と、思いなさい。儚い世の、物語、なども、申し上げて、慰めよう」

など、言い続ける。「心深いだろう、お物語、など、聞き分けるべくもないのが、残念だ」と答えて、この厭うに付けた返事は、しない。「思いもよらず、情けないことも、あった身なので、たいそう疎ましい。

すべて、朽木、などのようで、人に、見捨てられて、終わってしまおう」と、振る舞う。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第53冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。