ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第53帖 手習 / 第2場面

木の下に泣く女

あらすじ・人物・読み方

宇治の院の裏手で、法師たちが大木の下に泣く若い女を見つける。僧都は狐や木霊の業ではなく生ける人と見て、女を抱き入れさせる。

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まず、僧都が渡っていらっしゃる。「たいそうひどく荒れて、恐ろしげな所だな」とご覧になる。「大徳たち、経を読め」などとおっしゃる。この初瀬に付き添った阿闍梨と同じような、何事かあるのか、相応の身分の下﨟法師に、火を灯させて、人の寄らない裏手の方へ行った。

森かと見える木の下を、「気味の悪いあたりだ」と見入っていると、白い物が広がっているのが見える。「あれは、何だ」と、立ち止まって、火を明るくして見ると、物の座っている姿である。

「狐の化けたものだ。憎い。正体を現させよう」と言って、一人は今すこし歩み寄る。もう一人は、「ああ、よせ。よくない物だろう」と言って、そのような物を退ける印を作りながら、さすがにまだ見つめる。

頭の髪があったら太って見えるだろう心地がするのに、この火を灯した大徳は、遠慮もなく、無造作な様子で、近く寄ってその様子を見ると、髪は長くつやつやとして、

大きな木のたいそう荒々しいのに寄りかかって、ひどく泣く。「珍しいことでもありますな。僧都の御坊にご覧に入れたいものだ」と言うと、

「なるほど、怪しいことだ」と言って、一人は参って、「こういうことです」と申し上げる。「狐が人に化けるとは昔から聞くが、まだ見たことがない」

と言って、わざわざ下りていらっしゃる。あちらへ渡ろうとする都合で、下衆たちは、みな手際のよい者は御厨子所など、用意すべき事どもを、このようなあたりでは急ぐものなので、座り静まっているところに、ただ四、

五人で、ここにいる物を見るが、変わることもない。怪しくて、時の移るまで見る。「早く夜も明けきってしまえ。人か何かと、正体を現させよう」と、心にしかるべき真言を読み、印を作って試みると、効き目があると思うのか、

「これは、人である。決して異常な怪しい物ではない。寄って問え。死んだ人ではないようだ。もしかして死んだ人を捨てたのが、蘇ったのか」

と言う。「どうして、そのような人を、この院の中に捨てましょうか。たとえ、本当に人であっても、狐や木霊のような物が、騙して連れて来たのでしょうと、不憫でもございますな。

穢れのあるべき所でございましょう」と言って、いた宿守の男を呼ぶ。山彦の答えるのも、たいそう恐ろしい。怪しい様子に、額を押し上げて出て来た。

「ここには、若い女などが住んでいるのか。こういうことがある」と言って見せると、「狐の仕業です。この木のもとに、時々怪しい業をします。

一昨年の秋も、ここにいる人の子が、二つばかりでしたのを、取って参って来ましたが、見て驚きませんでした」「それで、その稚児は死んだのか」

と言うと、「生きています。狐は、それほど人を脅かすけれど、たいしたことのない奴です」と言う様子は、たいそう慣れている。その夜更けの参詣者の所に、心を寄せているのだろう。僧都は、

「それなら、そのような物のした業か。なお、よく見よ」と言って、この物を恐れない法師を近づけると、「鬼か神か狐か木霊か。これほどの天下の験者がいらっしゃるのに、隠れきれるものか。名のりなさい。名のりなさい」

と、衣を取って引くと、顔を引き入れてますます泣く。「いや、ああ、たちの悪い木霊の鬼め。本当に隠れるのか」と言いながら、顔を見ようとするが、「昔いた、目も鼻もなかった女鬼だろうか」と、気味が悪いのを、頼もしい厳しい様を人に見せようと思って、衣を引き脱がせようとすると、

うつ伏して声を立てるほど泣く。「何であれ、こんな怪しいことは、まったく、世にあってはならない」と言って、見届けようと思うと、「雨がひどく降りそうだ。こうして置いたら、死んでしまうだろう。垣の下に出してやろう」

と言う。僧都は、「本当の人の形である。その命の絶えるのを、見ながら捨てることは、たいそう痛ましいことだ。池に泳ぐ魚、山に鳴く鹿でさえ、人に捕えられて死のうとするのを見て、助けないのは、たいそう悲しいことだろう。

人の命は、長くあるべきものではないけれど、残りの命、一、二日をも惜しまないではいられない。鬼にも神にも取り憑かれ、人に追われ、人に謀られてでも、これは横死すべきものだったのだろう、仏が必ず救ってくださる極限の身である。

なお、試みに、しばらく湯を飲ませなどして、助け試みよう。ついに、死んだら、言う限りではない」とおっしゃって、この大徳に抱き入れさせると、弟子たちは、

「怠惰な仕業だな。ひどく煩っている方のそばに、よくない物を取り入れて、穢れが必ず出て来ようとする」と、非難する者もいる。また、

「物の変化であっても、目の前で、生きている人を、このような雨に死なせるのは、痛ましいことだから」など、心々に言う。下衆などは、たいそう騒がしく、物を悪く言いなすものなので、人騒がしくない隠れの方に寝かせてあった。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第53冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。