ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第53帖 手習 / 第4場面

僧都の下山ともののけ

あらすじ・人物・読み方

数か月を経ても女は回復せず、尼君の求めで僧都が下山して修法を行う。調伏されたもののけは、死を願う女を宇治から連れ去った由来を語って去る。

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手習・第4場面0 / 39
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続けて、こう介抱するうちに、四、五月も過ぎた。たいそう侘しく甲斐ないことを思い煩って、僧都の御もとに、「なお下ってください。この人を、助けてください。さすがに今日まであるのは、死ぬはずのなかった人を、憑きしみ取り憑いた物が、去らないのでしょう。

わが仏が、京にお出ましならばこそあれ、ここまでは来てくださるでしょう」など、痛切なことを書き続けて、奉ると、「たいそう怪しいことだな。これほどまであった人の命を、そのまま取り捨ててしまったら。そうなるべき因縁があってこそ、私も見つけたのだろう。

試みに、助けきってみよう。それでも止まなければ、業が尽きたのだと思おう」と言って、下りていらっしゃった。喜び拝んで、月ごろの様子を語る。

「こんなに長く煩う人は、難しいことが自然あるだろうに、すこしも衰えず、たいそう清らかに、ひねくれたところなくばかりいらっしゃって、死にそうに見えながらも、

こうして生きている仕業でした」など、むやみに、泣く泣くおっしゃると、「見つけた時より、珍しい人のお様子だな。さあ」と言って、差し覗いてご覧になって、

「本当に、たいそう優れた人のお顔立ちだな。功徳の報いでこそ、このような容貌にもお生まれになったのだろう。どのような過ちで、損なわれなさったのだろう。

もしや、そのことで、聞き合わせられることも、ないか」とお尋ねになる。「まったく聞こえることもありません。何です、初瀬の観音の、授けてくださった人です」とおっしゃると、

「何だ。それは縁に従ってこそ導いてくださるのだろう。種のないことがどうしてあろうか」など、おっしゃるが、不思議に思って、修法を始めた。「朝廷の召しにさえ従わず、深く籠もった山を、お出ましになって、むやみにこのような人のために修行し騒ぐと、噂が立ったら、たいそう聞き苦しいだろう」と思い、

弟子たちも言って、「人に聞かせるな」と隠す。僧都は、「いや、静かに。大徳たち。私は、無慚の法師で、忌むことの中で、破る戒は多いだろうが、女の筋について、まだ誹りを受けたことはなく、過ちはない。

六十を過ぎて、今さら、人の非難を負うのは、そうなるべき因縁があってこそだろう」とおっしゃると、「よくない人が、物を不都合に言いなす時には、仏法の瑕となります」

と、快くなく思って言う。「この修法の間に、験が現れなければ」と、痛切な誓いを立てて、夜一夜、加持した明け方に、他の人に憑り移して、「どのような物が、こう人を惑わしたのか」と、事情だけを言わせたくて、弟子の阿闍梨が、

代わる代わる、加持する。月ごろ、すこしも現れなかった物の怪が、調伏されて、「おのれは、ここまで参って来て、このように調伏されるべき身ではない。

昔は修行した法師が、わずかな世への恨みを止めて、漂い歩いた程に、よい女が大勢住んでいた所に住み着いて、一方は失ってしまったが、この人は、心から世を恨んで、

私どうぞ死にたいと言うことを、夜昼おっしゃったのに頼りを得て、たいそう暗い夜、一人でいらっしゃったのを、連れ去ったのだ。けれども、観音が、あれやこれや庇ってくださったので、この僧都に負けました。今は、去ろう」

と、罵る。「こう言うのは、何だ」と問うと、憑いた人は、物はかなそうで、はっきりとも言わない。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第53冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。