第53帖 手習 / 第8場面
女郎花の贈答
あらすじ・人物・読み方
翌日も訪れた中将は女郎花に寄せた歌を贈り、尼君が浮舟に代わって書いた返歌を受け取る。
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翌日、帰る時にも、「通り難い」と言って、いらっしゃった。そうすべき心遣いをしたので、昔を思い出した、御賄いの少将の尼なども、袖口の様子は異なるけれど、美しい。
ますます、慎ましく、尼君はいらっしゃる。物語の序でに、「密かな様子でいらっしゃるのは、誰でしょうか」とお尋ねになる。煩わしいけれど、ほのかにも見つけているのを、隠す顔をするのも不思議だと思って、
「忘れかねていて、ますます、罪深くばかり思われていた慰めに、この月ごろ見ている人です。どういうことか、たいそう物思いが深い様子で、世に生きていると人に知られることを、苦しそうに思っていらっしゃるので、このような谷の底には誰が尋ね聞くだろうか、と思いながらおりますのを、
どうして、お聞き現しなさるのでしょう」と答える。「唐突に、心あって参って来る者にさえ、山深い道の難儀は、聞こえるでしょう。まして、思いを寄せている方については、別々に、隔てなさるはずのないことです。どのような筋で、世を恨んでいる人でしょうか。慰め申し上げたい」
など、知りたそうにおっしゃる。お出になるといって、畳紙に、あだし野の風になびくな、女郎花よ。私が占めて結ぼう、道が遠くても。と書いて、少将の尼をして入れた。尼君もご覧になって、
「このお返事を書かせなさい。たいそう奥ゆかしく、慎んでいる人なので、後ろめたくもないでしょう」と促すと、「たいそう下手な手を、どうして」
と言って、まったく聞き入れないので、「みっともないことだ」と言って、尼君が、「申し上げたように、世に合わず、人に似ない人でして。
移し植えても思い乱れることのない女郎花よ、憂き世を背いた草の庵に咲いています。とある。「このたびは、それも仕方ないだろう」と、思い許して、帰った。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第53冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。