ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第53帖 手習 / 第9場面

秋の再訪と笛の音

あらすじ・人物・読み方

八月、中将は小鷹狩のついでに再訪し、歌を贈り笛を吹いて浮舟の心を動かそうとするが、直接の返答は得られない。

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手習・第9場面0 / 52
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文などをわざわざ送るのは、さすがに初々しく、ほのかに見た様子は忘れず、物を思っているだろう筋、何事か知らないけれど、感慨深いので、八月十余日の頃に、小鷹狩の序でにいらっしゃった。

例の、尼を呼び出して、「一目見た時より、心静かでなくて」とおっしゃった。お返事なさるべくもないので、尼君が、「待乳の山と、ご覧になります」

と言い出す。対面している時にも、「心苦しい様子でいらっしゃると、聞いていた人の御上が、残り気になっておりました。何事も心にかなわない心地ばかりしておりますので、山住まいも、したい心がありながら、許してくださらないだろう人びとに思い障って、過ごしております。

世に、心地よさそうな人の上は、こう屈した人の心からでしょうか、相応しくありません。物思いしているだろう人に、思うことを申し上げたい」など、たいそう心を留めた様子で、語らう。

「心地よくない御願いは、申し上げ交わすのに、相応しくない様子に見えますけれど、例の人ではないだろうと、たいそう疑わしいまで、世を恨んでいるようです。

残り少ない年齢の者たちでさえ、今はと背く時は、たいそう物心細く思われましたものを。世を込めた盛りには、ついにどうなるのだろうと、ご覧になります」

と、親しげに言う。入っても、「情けありません。なお、すこしでも、申し上げてください。このようなお住まいは、むやみなことも、哀れを知るのが世の常のことです」

など、取りなしても言うけれど、「人に物を申し上げる方も知らず、何事も言い甲斐なくばかり」と、たいそう素っ気なくて、臥せっている。客人は、

「どうしたことか。ああ、心痛い。秋を契っているのは、透かしているのであった」など、恨みながら、

松虫の声を訪ねて来たけれど、また萩原の露に惑ってしまいました。「ああ、かわいそう。これをだけでも」など責めると、そのように、世に通じたようなことを言い出すのもたいそう心痛く、また、言い始めては、このような折々に責められるのも、難しいと思われるので、お返事をさえなさらないので、

あまりにも言い甲斐なく、思い合っている。尼君は、早くは、今様めいた人であった名残なのだろう。

秋の野の露を分けて来た狩衣を、葎の茂る宿のせいになさるな。と、煩わしがり、申し上げているようだ」と言うのを、内にも、なお「こう心の外に、世に生きていると知られ始めるのを、たいそう苦しい」と思う、心のうちを知らずに、男君も飽きず思い出しながら、恋い続ける人びとなので、

「こう、儚いついでにも、打ち語らい申し上げるのに、心の外に、世に後ろめたくは見えないものを。世の常の筋には思いをかけなくても、情けなくない程に、お返事だけは申し上げなさい」

など、引き動かしそうに言う。さすがに、このような古代の心どもには付き合わず、今様めきながら、腰折れ歌を好ましそうに、若やぐ様子どもは、たいそう後ろめたく思われる。

「限りなく、憂い身だったと見果てた命さえ、驚くほど長くて、どのような様子で、さすらうべきなのだろうか。ひたすらに、亡き者と、人に見聞き捨てられても、終わってしまいたい」

と思い臥せっているのに、中将は、大方物思いがちなことがあるのだろうか。たいそうひどく打ち嘆き、密やかに、笛を吹き鳴らして、「鹿の鳴く音に」

など、独り言を言う気配は、本当に、心地悪くはあるまい。「過ぎ去った方の思い出されるのにも、かえって心尽くしに、今初めて哀れと思うべき人はまた、難しそうなので、見えない山路にも、思いなすことができない」

と、恨めしそうに出ようとするのに、尼君が、「どうして、惜しい夜を、ご覧になり残したのですか」と言って、いざり出ていらっしゃった。「何です。遠方の里も、試みますので」

など言い進んで、「ひどく好きがましいのも、さすがに都合が悪い。たいそうほのかに、見えた様子が、目に留まったばかり、所在ない心の慰めに思い出すのを、あまりにも手放し、奥深い気配も、所の様子に合わず、興醒めだ」と思えば、帰ろうとするのを、

笛の音さえ飽きず、ますます感じて、深い夜の月をあはれとも見ない人だから、山の端に近い宿にも泊まらないのでしょう。と、中途半端なことを、「このように、申し上げます」

と言うのに、心ときめきして、山の端に月が入るまで眺めていましょう。閨の板間に月影の印があるかと。など言うのに、この大尼君が、笛の音をほのかに聞き付けたので、さすがに愛でて、出て来た。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第53冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。