ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第1帖 桐壺 / 第3場面

更衣の死と葬送

あらすじ・人物・読み方

更衣が病に倒れ、帝と母君は深い悲しみに沈む。

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現代語で読む

その年の夏、御息所はちょっとした病気になり、実家へ下がろうとされたが、〔帝〕はまったくお許しにならない。〔更衣〕は長年病気がちで、〔帝〕も見慣れてしまい、もう少し様子を見よとばかり仰せになるうち、日ごとに悪化し、わずか五、六日ですっかり弱った。母君は泣きながら申し上げて、〔更衣を〕退出させることにした。

〔更衣〕はこんな時にも、万一の恥辱があってはと気を配り、若宮を〔宮中に〕残して、人目を忍んで退出される。どうにも仕方がないので、〔帝〕もそう引き止め続けることはできない。せめて見送ることさえできぬ心もとなさを、言いようもなく感じていらっしゃる。

つややかでかわいらしかった人が、ひどく顔もやつれ、心の底まで悲しみに沈みながら、口に出して申し上げ尽くせず、今にも消え入りそうにしている〔更衣〕を〔帝が〕御覧になると、〔帝〕は過去も未来も考えられず、あれこれ泣きながらお約束になるが、〔更衣〕はお返事も申し上げられない。

目つきも力なく、ますますぐったりと意識も定かでない様子で横になっているので、どうなるのかと〔帝〕は取り乱される。〔帝〕は〔更衣の〕車を乗り入れる許しなどをお出しになっても、また〔お部屋へ〕お入りになっては、どうしても出発させることがおできにならない。

「最期の道でも、一緒にと約束したのに。まさか〔私を〕捨てて行くことはできまい」と〔帝〕は仰せになる。女も胸が張り裂ける思いで〔帝を〕拝見し、「これが最期と別れる道の悲しさに、生き続けたいのはこの命なのでした。こんな思いをいたすのでしたら」と、息も絶え絶えで、まだ申し上げたいことがありそうだが、ひどく苦しく、力もないので、

〔帝〕はこのまま、どのようになろうとも見届けたいとお考えになる。今日始めるはずの祈祷を承った人々が、今夜からと申し上げて、退出を急がせるので、〔帝〕はどうにもつらく思いながら、〔更衣を〕退出させられた。

〔帝〕は胸がぎゅっと詰まり、少しも眠れず、夜を明かしかねていらっしゃる。使者が絶えず行き来しても、〔帝〕はなお気がかりでたまらぬと仰せだった。夜半過ぎ、「〔更衣が〕お亡くなりになった」と〔人々が〕泣き騒ぐので、使者もあっけない思いで宮中へ戻った。

知らせを聞いた〔帝〕は取り乱し、何も考えがまとまらず、奥に籠もっていらっしゃる。こんな時でも〔帝〕は若宮にお会いになりたいが、このような折に宮中にいる例がないので、〔若宮は〕退出されることになる。〔若宮〕は何が起きたともわからず、仕える人々が泣き乱れ、帝の涙が流れ続けるのを、不思議そうに見ていらっしゃる。普通の場合でさえ、このような別れは悲しいものなのに、まして痛ましく、言いようがない。

やむをえず、定めどおりにお葬りすることになる。母君は〔娘と〕同じ煙になって昇りたいと泣き焦がれ、葬送の女房の車に追いすがって乗られた。おたぎという所の、たいそう厳かに葬儀を営む場に着いた時の〔母君の〕お気持ちは、どれほどだったろう。

亡骸を目にしていると、まだ生きているように思ってしまう。それもむなしいから、灰になるのを見届け、もう亡き人なのだと思い切りましょうと、〔母君〕は気丈に言っていたが、〔母君〕は車から落ちそうなほど取り乱されるので、人々は「やはり、そうなると思っていた」と、お扱いに困り果てる。

宮中からお使いが来た。三位を贈るということで勅使が来て、その宣命を読み上げるのは悲しいことだった。〔帝〕は、女御とさえ呼ばせずに終わったのが心残りで、せめてもう一段高い位をと、〔帝は〕贈られたのだ。それにさえ、憎しみを抱く人は多かった。

情理のわかる人は、〔更衣の〕姿の美しさ、気立ての穏やかさや感じのよさ、憎めなかったことなどを、今になって思い出す。度を越した〔帝の〕お扱いのせいで、冷たくねたんだものの、その人柄の優しさと情け深い心を、帝付きの女房たちも互いにしのんだ。いなくなって初めてわかるとは、こんな時のことだろうと思われた。

底本:北村季吟『湖月抄』延宝1 [1673] 跋・国立国会図書館所蔵 本別3-1。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。原版の字形をそのまま再現する翻刻ではありません。