ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第1帖 桐壺 / 第9場面

結婚後の源氏

あらすじ・人物・読み方

左大臣家に迎えられた源氏は、なお藤壺を慕い、理想の人との暮らしを夢見る。

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その夜、大臣の邸へ源氏の君が退出される。儀式の作法も世にも珍しいほど立派にし、〔大臣は源氏を〕手厚くお世話なさった。たいそう幼くいらっしゃるのを、〔大臣は〕おそろしいほどかわいらしいとお思いになる。花嫁は少し年上なので、〔源氏が〕たいそう若くいらっしゃるのは、釣り合わず恥ずかしいと思っていた。

この大臣の信望はきわめて厚く、〔花嫁の〕母宮は帝と同じ后からお生まれになった方なので、どちらの縁から見ても華やかな家に、この君まで加わったので、皇太子の祖父としていずれ政権を握るはずの右大臣の勢力も、問題にならぬほど圧倒された。

〔左大臣には〕幾人もの妻から生まれた子がある。皇女から生まれた〔子〕は蔵人の少将で、若く魅力的なので、〔左大臣と〕の仲はよくない右大臣も、見過ごすことができず、大切に育てた四の君と結婚させ、〔源氏に〕劣らぬほど世話をしていた。どちらも申し分ない縁組なのである。

源氏は帝がいつもおそばへ召されるので、ゆっくり妻の家で暮らすこともできない。心の中では藤壺の御様子こそ類がないと思い、あんな方とこそ結婚したい、似た人もないものだと感じている。大臣家の姫君は、優美に大切に育てられた人とは見えるが、〔源氏の〕心には響かなくて、幼くひたむきな心に〔藤壺が〕かかって、苦しいほどなのであった。

成人なさってからは、以前のように御簾の内へも入れていただけない。音楽の折々、琴や笛の音を通じて〔藤壺の様子を〕聞き、かすかな御声を慰めとして、宮中暮らしばかりを好ましく感じていらっしゃる。五、六日宮中に仕え、左大臣家へ二、三日と、間を置いて下がられるが、〔大臣は、源氏が〕今はまだお若いので責めることもなく、大切に世話をなさる。

お側の女房たちは、世間でも並々でない者を選び集め、特に選りすぐって仕えさせられる。お気に召すような音楽を催し、ひたすらにお心を配ってお世話をする。

宮中では、以前の淑景舎をお部屋とし、亡き母君付きだった女房たちも散り散りにならず、引き続き仕えさせていらっしゃる。実家の邸は修理職と内匠寮に帝の命令が下り、比べるものもないほど立派に改築させられる。もとから木立や築山のたたずまいが趣深い所を、池の造りを広く整え、盛んに造営している。

こんな邸で、理想の人を迎えて暮らしたいものだとばかり、〔源氏は〕ため息をつきながら思い続けられる。光る君という名は、高麗人がそのすばらしさを称えて付け申し上げたのだと、言い伝えているという。

底本:北村季吟『湖月抄』延宝1 [1673] 跋・国立国会図書館所蔵 本別3-1。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。原版の字形をそのまま再現する翻刻ではありません。