第2帖 帚木 / 第19場面
方違え先を選ぶ
あらすじ・人物・読み方
今夜の帰り道が方角の禁忌に当たると知らされ、源氏は紀伊守の家へ向かうことにします。紀伊守は伊予守の妻が滞在中だと気にしますが、源氏はむしろその近さを喜びます。
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次第に日が暮れるころ、「今夜は、宮中からでは、なか神の禁じる方角に当たっておりました」と申し上げる。「そうだった。いつもお避けになる方角であった。二条院に行くにも同じ方角だ。どこで方違えをしよう。ひどく具合が悪いのに」とおっしゃって、お休みになっている。「それは、たいへん悪いことでございます」と、あれこれ申し上げる。
紀伊守で、親しくお仕えする人が、「中川の辺りにある私の家は、このごろ、水を引き入れて、涼しい物陰がございます」と申し上げる。「それはよい。具合が悪いので、牛をつけた車のまま、引き入れられそうな所を」とおっしゃる。
ひそかに方違えをなさる先は、たくさんありそうだが、久しぶりに、こちらへいらっしゃったのに、方角が悪いからと、それにかこつけて別の方へ行かれると思われるのは、申し訳ないのだろう。
紀伊守に、お申し付けになると、お受け申し上げながらも、退いて、「伊予守朝臣の家に、物忌で慎む事情がございまして、その奥方が、こちらへ移っておられる時で、狭い家でございますから、失礼なこともございましょうか」と、ひそかに困っているのをお聞きになって、
「その、人のすぐ近くにいられるというのが、うれしいだろう。女性の遠くにいる旅寝は、何だか恐ろしい気がするだろうに。ぜひ、その几帳の後ろに」とおっしゃるので、「それは、なるほど、よい御座所にもなりましょう」と言って、人を走らせてやる。
底本:北村季吟『湖月抄』延宝元年刊・国立国会図書館所蔵 本別3-1 [2]。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。