第1場面 光源氏の名と語り手のためらい
語り手は源氏の恋の秘密まで伝わることに口を挟み、その慎重な性格と、人に言えない恋の癖を語ります。
源氏物語 第2帖
長雨の宮中で、源氏と頭中将、左馬頭、藤式部丞が女性の人柄や暮らしを語ります。雨が上がると源氏は方違えで紀伊守の家へ向かい、伊予守の妻と出会います。女はその後の便りにも打ち解けず、小君が二人の間を取り次ぎます。
語り手は源氏の恋の秘密まで伝わることに口を挟み、その慎重な性格と、人に言えない恋の癖を語ります。
雨と物忌が重なり、源氏は宮中にとどまります。親しい頭中将も身近に出入りし、二人は気兼ねなく付き合います。
静かな雨の夜、頭中将は源氏の手紙を見たがります。源氏は隠そうとしますが、二人の会話は女性についての話へ移っていきます。
頭中将は、手紙や一芸が優れていても、それだけでは人柄は分からないと語り、育ちや日々の振る舞いへ話を広げます。
中将が女性の育ちを上中下に分けると、源氏はその基準を問い返します。そこへ左馬頭と藤式部丞が加わります。
名門の女性なら立派でも当然だという話から、知られずに暮らす女性の意外な魅力へ関心が移ります。語り手は、話を聞く源氏の姿にも目を向けます。
広く人を品定めする話から、実際に家庭をともにする相手の話へ進みます。取りえがあっても一緒に暮らす時の不足は別だと、語り手たちは考え続けます。
筆跡や声にひかれても、人柄まで分かったことにはなりません。実際に暮らす相手には、外で起きたことを理解し、語り合える心が要ると話します。
最後に頼みにできるのは穏やかで誠実な心だと語ります。一方、恨みを言わずに姿を消す女性をめぐり、物語への子どものころの感動と、大人になってからの見方を比べます。
互いに率直さを失わず、穏やかに付き合う難しさを語ります。左馬頭は、見栄えだけでは決まらない人柄を、木工や絵、書の技量になぞらえます。
左馬頭は、まだ地位が低かったころに連れ添った女性を思い出します。暮らしを支える彼女の嫉妬をやめさせようとした口論が、指を噛まれるけんかに発展します。
数日後、みぞれの夜に戻った左馬頭を迎えたのは、整えられた寝具と、妻の不在でした。彼は気持ちを変えずに駆け引きを続け、やがて取り返しのつかない別れを迎えます。
左馬頭は、才芸ある別の女性に心を引かれた話を続けます。月の夜に訪れると、同乗した殿上人と女性が音楽と歌を交わし、その華やかさが逆に不信につながります。
頭中将は、ひそかに付き合った女性と、その幼い子の話をします。穏やかな女性が何も言わないことに安心している間に、二人を失ってしまったと語ります。
話を促された藤式部丞は、学問に通じた女性を語ります。暮らしや出世の助言を受け、漢詩まで教わりましたが、親しい妻として向き合うには気後れしたと話します。
久しぶりに訪ねた藤式部丞は、薬にした蒜のにおいを理由に、顔を合わせられないと言われます。二人は蒜と昼間を掛けた歌を交わし、聞き手たちは笑いながら話を疑います。
話は女性の学問や歌のたしなみへ移ります。知っていることをすべて見せようとせず、相手の事情や時機をくみ取ることが望ましいと、一同は語ります。
雨がようやく上がり、源氏は左大臣邸へ退出します。整った住まいと妻の立派さを感じながらも、その厳しさに打ち解けかねています。
今夜の帰り道が方角の禁忌に当たると知らされ、源氏は紀伊守の家へ向かうことにします。紀伊守は伊予守の妻が滞在中だと気にしますが、源氏はむしろその近さを喜びます。
源氏は近しい供人だけを連れて中川の家へ向かいます。水や植栽を整えた庭に蛍が飛び、人々は泉の辺りで酒を飲みます。
源氏が西側の人の気配へ耳を澄ませると、若い女性たちが源氏の噂を語っています。秘めた思いが漏れないかと胸を騒がせますが、話は朝顔へ贈った歌のことでした。
源氏は、集まった少年たちの中の上品な子に目を留めます。故衛門督の末の子で、伊予守の妻になった姉を頼っていると聞き、その姉の境遇を尋ねます。
源氏は北の障子の向こうで、少年と姉の会話を聞きます。周りが静まると、自ら掛け金を開け、女房を呼ぶ姉のいる部屋へ入ります。
源氏は中将という女房を呼ぶ声に応じて近づきます。女は突然のことに驚き、人違いだと告げますが、源氏はその戸惑いを押して語りかけ、奥へ連れ出します。
人々が起き始め、源氏は帰る準備を促されます。再会や便りの頼りもなく別れることを嘆きますが、女は自分の境遇を思い、気を許すことができません。
源氏は女の心中を思いやり、紀伊守に少年をそばで使いたいと伝えます。女は親の考えと違う結婚を嘆いている、とも聞きます。
源氏は少年に親しく語りかけ、姉への文を託します。姉は少年にまで事情を知られたことをつらく思い、返事を渡せずにいます。
源氏は返事が来ないことを嘆き、少年をそばに置いて宮中にも連れて行きます。女は便りが外へ漏れることを恐れ、思いはあっても、打ち解けた返事をしません。
源氏は方角の禁忌を機会に、再び中川の家へ向かいます。小君を通じて知らせを受けた女は、再び逢うことをためらい、女房の部屋へ身を移します。
姉に拒まれたと聞き、源氏は近づくと消えるという帚木にたとえた歌を送ります。女も名のつらさを返歌に託します。源氏は少年をそばへ寝かせます。
底本:北村季吟『湖月抄』延宝元年刊・国立国会図書館所蔵 本別3-1 [2]。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。